エマニュエル・トッドさん
エマニュエル・トッドさん

 家族制度や識字率、出生率に基づき、現代政治や社会を分析し、「ソ連崩壊」から「米国の金融危機」などを予言した、フランスの歴史家エマニュエル・トッド。パンデミックとウクライナ戦争で注目を集めた“デジタル技術”により、ある群の国家が勝利を収めていると語ります。しかし長期化するウクライナ戦争では、他方で、このようなデジタル技術はそれほど価値があるわけではないとも言います。その真意を、最新刊『2035年の世界地図』から一部を抜粋・再編して大公開します。

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■ネットによる“監視社会”がもたらしたのは大衆支配ではない

――あなたは、パンデミックはデジタル技術を使った監視社会への道を開いたと思いますか。

 この質問は大変難しい。答えにためらってしまいます。

 確かに、我々の社会は「監視社会」ではあります。ただ、私たちが問題にしているのが誰についてなのか定かでありません。「誰が観察されていますか?」「ソーシャルメディアなどで監視されているのは誰ですか?」ここから考え始めるべきです。

 たくさんの偏執症的な文言や動画が出回っています。いかに私たち全員が国家などによって観察され、監視されているかを伝えています。私の印象では、ほとんどの人は――私もその中に含まれると思いますが――まったく重要ではないので、監視する必要など、さらさらありません。

 つまり、ここには、いわば信じがたい自己陶酔的な要素があります。「国家が全員を観察し、監視したい」という考えです。国家にとってほとんどの人は全く重要ではありません。

 しかし、あるカテゴリーの人たちは重要です。監視したり観察したりする値打ちのある人たちです。それがエリートです。全世界規模の権力ゲームの中にいるエリートです。

 私は最近、ある歴史的な問題を理解し、説明したいと考えています。それは、「なぜヨーロッパのエリートがますます米国に従属的になっているのか」ということです。

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トッド氏が考える「インターネット」の勝者とは?