■要介護認定の申請:「みんながやっている」がキーワード

 要介護認定の申請は、親がある程度元気なうちに早めにしておきたいもの。しかし、その元気さゆえに、抵抗する親も多いのです。抵抗にあったら、「必要だから申請する」と説明するのではなく、話のもっていきようを、ちょっと工夫してみてください。

 以前、介護の現場で、「この方法、いいなあ、上手だなあ」と思ったケースがありました。

 70代後半の父親と相談に来た女性。要介護認定の申請を考えていますが、父親は「娘が申請しろって言うんだけど、私はまだいらないと思います」と、いまひとつ納得していない様子です。

 娘さんが「父はこんなふうに、まだまだだって言うのですが、みなさん、もう申請されていますよね」と口火を切りました。私たちも、「ええ、お父さんくらいの年代の方は、みなさん申請されていますよ」と話します。父親は「みんなやっているのですか」と少し驚いた様子です。私たちの「みなさん、お元気なうちに申請されていますよ」という言葉に、「それなら私もいまから申請するほうがいいですね」と、気持ちがやわらいできたようです。

 ここでキーワードになったのは「みんながやっている」です。たとえば昭和20年前後生まれの人は誰でもやっている、お父さんの同級生の○○さんもやっている、町会の75歳以上はみんなやっているなど、同世代や身近な人を例に出すと、「自分事」としてとらえられて、「それなら自分もやってみるか」と考えてくれます。

 70年80年の人生を、人との和を大事にして生きてきた親世代。自分だけではない、みんながやっているというのは、前に一歩踏み出すために背中を押してくれる考え方なのでしょう。誰にでも通用する魔法のフレーズとまでは言いませんが、この一言ですんなり話が進むケースも多いと思います。

 前出の父親は、その後申請をして要支援1となり、今は週2回、デイサービス(通所介護)に通っているということです。

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調査員の前でふだん以上の力を発揮する親