12月18日に行われる漫才の祭典『M-1グランプリ2022』の新しい審査員として、山田邦子と博多大吉が加わることが発表された。博多大吉は過去にも審査員を務めたことがあり、大方の予想の範囲内ではあるが、山田邦子の抜擢には驚いた人も多かったようだ。

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 山田は90年代のバラエティ全盛期にゴールデン番組『邦ちゃんのやまだかつてないテレビ』(フジテレビ)を含むレギュラー番組を週14本抱え、NHKの「好きなタレント調査」では8年連続で女性部門の1位に輝いた伝説の芸人である。

 しかし、漫才師ではないし、近年ではテレビ出演の機会も少なくなっていたため、審査員に選ばれたことを意外だと感じる人も多かったようだ。

 しかし、上沼の代役として女性芸人を1人入れることを考えるのなら、それなりに妥当な人選だ。山田の芸人としての実績は上沼にも見劣りしないし、40代以上の視聴者にはよく知られている。吉本興業所属ではないという点でも上沼と共通しており、「吉本偏重」というイメージをつけたくない主催者側にとっては格好の人材であると言える。

 山田がどういう審査をするのか気になっている人もいるようだが、審査そのものには恐らく大きな問題はないだろう。この手のお笑いコンテストの現場では、観客のウケ具合などである程度はくっきりと優劣が分かれるものであり、誰が採点しても大筋では似たような結果になることが多い。

 そのため、細かい個人的な好みによる差はあっても、1人だけ極端に偏った審査をするということは考えづらい。また、万が一、本当にそうなることがあったとしても、審査員は7人もいるため、山田の採点の影響力は全体に対して7分の1しかない。彼女の審査で勝敗が大きく変わるようなことにはなりづらいはずだ。

 それよりも、個人的に山田に期待しているのは、否定的な意見も含めて、思ったことを率直に語ってもらいたいということだ。最近の『M-1』では、お笑い界や世間の空気の変化もあり、審査員が出場者に対してあまり厳しいことを言わなくなっている。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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