少し前までは、上沼が唯一気を吐いていて、ネガティブな意見も堂々と口にしていたのだが、そんな彼女ですら近年は発言がおとなしくなり、それほどきつい物言いをしなくなっていた。

 もちろん、単に何でもいいから悪口を言ってほしいというわけではない。ただ、少量のスパイスが料理の風味を出すように、『M-1』という国民的行事にもちょっとした刺激があってもいいと思うのだ。

 その意味では、初期の『M-1』はややスパイスが効きすぎているきらいがあった。決勝の舞台ではピリピリした緊張感が漂っていて、出来が悪かった芸人は容赦なく厳しい評価を下された。いま振り返るとお笑い番組としては空気が重すぎた感じもするが、その分だけ爆笑を取った芸人がより輝いて見えたし、ドキュメンタリーとしての見ごたえもあった。

 山田は大会を主催する吉本興業に所属しているわけでもないし、2019年に長年在籍していた太田プロダクションからも独立しており、事務所の縛りなど気にせずに自由にものが言える立場にある。そんな彼女には、多少厳しいことでも本音を堂々と語ってもらいたい。物議を醸しても炎上しても構わない。初めからお笑いの審査に正解などあるはずがないのだから。

 山田邦子という不確定要素が加わった今年の『M-1』は、「やまだかつてない」盛り上がりを見せることになるかもしれない。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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