トラが誰とどう住むかを考えました。トラは両親にべったりだったし、両親もトラが好きで、「何してる?」「今日はよく食べてる」など会話の中心もトラになっていたので、今さら引き離すことができませんでした。

 それで両親はトラと共にアパートに移り住み、僕は一人で別のアパートに住むことになりました。別といっても自転車で15分の場所。週の半分は実家に寄るという生活でした。

 その翌年(2013年)、僕は(交際していた)妻と一緒に暮らすため、もう少し広いところに引っ越しをすることにしました。その時、いつか来るかもしれない日=年老いた両親からトラを引き取る日、を想定して、ペット可の今のマンションを借りたんです。

 でもここで、ちょっとだけ番狂わせが起きます。

■トラより前に地域猫を新居に迎えた

 妻と同居した一年後、マンションの側で野良と出会いました。地域で可愛がられていたモンジという猫です。

 僕は、実家までトラの様子を見にいく日々のなか、モンジにも愛着を感じ、外で触れ合ったり、「家に連れていきたいけど、外の方が自由かな」なんて悩んだりしていました。ところがある時、モンジが急病で倒れて入院してしまったんです。

 獣医師から「もう長くない」と言われたので、うちで引き取ってみとってあげようと妻と話し合いました。ところが入院中のモンジが奇跡的に回復し、結局退院後、僕のマンションに迎えることになったのです。予想外でしたが、これも縁でしょう。

 そこから“両親はトラと”“僕ら夫妻はモンジと”という暮らしがしばらく続きました。

 両親にとっては、トラの存在が一層大きくなっていきました。仕事を辞めてからの父は、母から「家でごろごろしてる」と母によく怒られていたのですが、そんな時も、トラがいることで部屋の空気が和んでいました。

「ほらメダカだよ」父と水槽を見るトラ
「ほらメダカだよ」父と水槽を見るトラ

 その生活が変わったのは、昨年、春です。

 3月初旬に母が心臓を悪くして倒れ、入院しました。その2週間後、父も脳梗塞(こうそく)になったんです。

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コロナ禍で面会もできないなかチャンスが