今夏、大きな注目を浴びた魔曲は、千葉・市船橋高『市船soul(ソウル)』。

 2013年頃に制作された楽曲は、15年ぶりの出場となった甲子園では初披露となった。

「今年は『市船soul』の夏だったと思います。曲自身もノリが良くてイケイケのタイミングで使いやすい。また、高校野球は球児だけのものではないということです。この曲も学校関係者、地元、ファンを含めてみんなの思いが集約されている。だからこそ誰もが熱狂するのだと思います」

「甲子園での初披露から『市船soul』は魔曲でした。思い、伝統、歴史など多くのものが積み重なっている。『ジョックロック』等、他の楽曲とは異なる形でできあがった魔曲だと思います。地区大会で敗退して甲子園に出場しない学校にも、こういうケースはあるはずです。そういう曲をどんどん聴きたいです」

●楽曲制作には様々な思いが詰め込まれている

 高校球界にも多数の楽曲提供しているジン氏だが、発注先の学校から「魔曲になるような曲を作りたい」という依頼もある。その際のイメージは、やはり『ジョックロック』が多いという。

「魔曲を作りたい。2018年の奈良大付属高『青のプライド』制作時、同校生徒から真っ先に出た言葉でした。『ジョックロック』の曲調をイメージしていたようです。同校は1925年創立の伝統校なので歴史と伝統があります。誇りを大事にしたいと思い、スクールカラーの青色を前面に押し出しました。『ジョックロック』の雰囲気は残しつつも、独自のものを作り上げました」

 壮大さがベースの『ジョックロック』のとは異なるテイストの曲を好む学校もある。2017年制作の早稲田佐賀高『チャンス早稲田佐賀』は、ジン氏が関わっていたロッテの応援をイメージしていた。

「ロッテの応援を使いたいということで連絡が来たので、オリジナルを作りましょうとなりました。生徒からは『唐津という言葉を入れたい』という意見が出ました。今を精一杯燃焼しようとしている高校生の気持ちが伝わってきました。『最高の夏にしようぜ』という歌詞と相まり、青春を感じさせます。制作過程、内容等からは、魔曲というより『青春歌』と言える楽曲に感じます」

 早稲田佐賀高は全校生徒の約6割が他県出身者だが、学校の地元・唐津に対する思いが強いことを認識させられた。

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「全ての曲が魔曲かもしれないですね」