LiLiCoさん(撮影/写真映像部・高野楓菜)
LiLiCoさん(撮影/写真映像部・高野楓菜)

 私はこのドライブ・マイ・カーを「私と人生を共にして」という意味だと理解しました。映画では、運転中はほとんど会話もなくて、目の前の一本道をひたすら進んでいく。人生ってある意味で道。当然アップダウンがあって、回り道に宝物が落ちていることもある。でも何があっても前に進むもので、それはとてもいいことです。死ぬ直前に何が楽しかっただろうって考えるとき、この映画みたいに淡々と「いろんなことがあったな」と思うのかもしれない。

 もしかしたら監督は「LiLiCo、全然違うよ」って言うかもしれないけど、感じ方は十人十色。もう1回見たら私も全然違うことを感じるかもしれない。

――映画の中で印象的だった演出はありますか? 予告編では、ドライバーの女性と主人公がタバコを吸うシーンが使われていました。

 タバコはこの映画ですごく大事な役割を持つ小物だったなと思います。やっぱりドライバーの女性がタバコを吸いながら待っているというところに、彼女の人生や性格が見えるんですよね。主人公もタバコを吸うのに、車の中では吸わないでとお願いする。どれだけこの車が彼にとって大事かわかるし、だからこそ天井のルーフトップから手を出して、2人でタバコを吸うシーンが印象に残るんです。

 しかもあの車はスウェーデンの「サーブ」!(LiLiCoさんはスウェーデン出身)。スウェーデンの車と言えば「ボルボ」だけど、赤のサーブって渋い。そこも嬉しかった。

――海外の評価が高かった作品です。スウェーデン人であるLiLiCoさんの目から見て、なぜ評価されたと思いますか。

 ヨーロッパから見ると、日本は地図の東側の端っこにある「日の出の国」。東京オリンピックはあったけど、まだまだミステリアスな国なんです。


 その日本人が、ブルーグレーの画面の中に裸でいるシーンからこの映画は始まる。とてつもなく生々しくて、美しいんですよね。アメリカ映画だったら「Oh! Yes!!」と始まると思うんですが(笑)、裸ではあるけど少し恥じらいがあって、程よいウェット感がある。ヨーロッパ人からしたら掴みはOK。

 それに、まだ「日本女性は3歩下がって…」というイメージがあるので、主人公の妻が作家としてバリバリ活躍しているのも、外国人にとっては「ここまできたか!」とすごく嬉しいし、夫婦共働きというのも新鮮だった。

 加えて、ヨーロッパ人は自分たちの描き方と似ていると思ったかもしれない。フランス映画やルーマニア映画には、エンディングは自分で探してくださいっていう作品がたくさんあるから。「グッドモーニング!」って言うシーンでバッチリ化粧しているような、すべてを美化するアメリカ映画とは全然違うんですよね。

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「謎だな」と思うシーンも