LiLiCoさん(撮影/写真映像部・高野楓菜)
LiLiCoさん(撮影/写真映像部・高野楓菜)

――作り手も余白を敢えて描いている、見た人も余白を意味のあるものと捉える。そんな文化が似ているということですね。

 最初は雰囲気を感じ取る。謎だなと思うシーンもちりばめられているから、見る度に面白くなっていきます。例えば、主人公の妻は物語を書くためにセックスが必要で、ほかの男と浮気をしているんですが、夫はその場に出くわしたときも鏡越しにしか見ていないんです。もしかしたら浮気は彼の妄想かもしれないし、彼女の物語を見ているのかもしれないな、とか。

「クロサワ(黒澤明)」と「オヅ(小津安二郎)」は世界的に有名ですが、この作品で初めて日本映画に触れる人も多かったと思う。この映画に惚れた誰かが日本に来て、さらにいろんな映画があると知るかもしれない。日本映画の将来にとっては本当に素晴らしいことだと思います。

――海外での評価が追い風となって国内でも映画はヒットしました。コロナ禍も2年が過ぎるというタイミングは影響したのでしょうか。私自身、久しぶりに映画館に足を運びました。

 昨年は韓国の『パラサイト 半地下の家族』がカンヌ国際映画祭の最高賞を受賞し、アジアには良い映画があると世界が注目していたタイミングでもあったし、海外で人気のある村上春樹さんの原作だという理由もあったと思います。

 監督がずっと興味を持っていたという多言語劇の要素を取り込んだことも意図せずダイバーシティーの時代に合っていた。

 言葉を発さないけど確実に信頼で結ばれていく2人の姿や喪失と再生という大きなテーマが、誰とも会えない時間が続いていたコロナ禍の世界にはまった。監督の趣味と妄想と、時代がぴったりと合っていたわけです。

 映画ってエンドロールの後も終わっていないの。自分の中で生き続ける。もちろん映画は娯楽だからハッピーになりたいという人もいるけど、映画は人生に役立つヒントを運んでくる娯楽だし、結果的に長く心の中に残るのはハッピーじゃないものだったりする。世界中がコロナという問題に向き合って、みんなが立ち止まって自分の人生を考えたタイミングで、今必要とされた映画だったんだと思う。

 100年後も映画はあると思うんだけど、やっぱり映画館で誰かと一緒に泣いたり笑ったりするのが、本当に素敵な時間だと思います。売店からホットドッグやチュロスの香りがしたり、誰かが音を立ててドリンクを飲んだり、ね。吉永小百合さんが「スクリーンから飛沫は飛びません」とおっしゃっていましたが、コロナ禍で遠ざかっていた方たちにもまた映画館で映画を見てほしいなと思います。

(聞き手/AERA dot.編集部・金城珠代)