小嶋氏が勧めるのは、心身の状態に合わせてホームをかわる「転ホーム」です。例えば次のようなモデルが考えられるといいます。

(1)元気なうちに入る高齢者ホーム(現状ではサービス付き高齢者向け住宅=サ高住)に入居。

(2)認知症が始まって問題行動が現れたら、認知症のケアを得意にする介護付き有料老人ホームに移る。または脳卒中などで運動機能や脳神経系に障害が出たら、リハビリを得意とする住宅型有料老人ホームに移る。

(3)認知症の場合、問題行動は数カ月~数年でおさまることが多く、徐々にADL(日常生活動作:歩行、食事、入浴、排泄などの日常生活で最低限必要な動作)が低下してくる。そうなったら、ADLが低下した高齢者の扱いが得意なホームに移る。

(4)さらに寝たきりになったら、ベッドの上で大半を過ごす高齢者の扱いが得意なホームに移る。あるいは在宅に移行する(自宅に戻る)のもあり。

 確かにこのようにホームを変われば、そのときどきに必要なサービスを適切に受けることができそうです。

■「ホームをかわるのは面倒」が大半の子ども世代の意見

 転ホームは制度的にも問題はありませんが、実際にはホームを移るケースを見たり聞いたりすることはあまりないでしょう。転ホームが望ましいと考えたとしても、実践するにはいくつかの障害があるといいます。

「最も大きな要因は、子ども世代が難色を示すことです」(小嶋氏)

 子どもがいて子どもと同居していない65歳以上の高齢者の割合は年々増加し、2019年には子どもがいる高齢者全体の約50%にのぼっています。働き盛りの子ども世代にはそれぞれの生活があり、遠方に離れていればなおさら、自分たちでケアしたくてもできない状況にあるでしょう。さらに多くの場合、親の病気や事故などは突然やってきます。看護や介護についてよく知らない状況で、素早い対応を求められ、プロの手に委ねて安心したい、安全を確保してあげたいと思うのは自然な成り行きかもしれません。希望のホームに入るのは一苦労ですから、やっと入居させた安堵から、転ホームするなど思いもつかないといったところでしょう。

次のページ
最近は、入居一時金が必要ないホームも