だからこそ、この番組には、人を貶(おとし)めたりバカにしたりして盛り上がるような嫌な感じがなかった。MC陣がどこまでもアウトな人に優しく寄り添う姿は、カウンセリングの光景を見ているようだった。

「アウト」は個性である。人間の弱点と思われている部分は、見方を変えれば強みにもなる。それを証明するかのように、坂上忍、遠野なぎこ、加藤一二三など、この番組をきっかけにしてタレントとして飛躍した人も大勢いる。

 また、最終回まで「アウト軍団」の一員として出演を続けていた柿沼しのぶと山下恵司のように、番組内で愛すべき名物キャラクターのような存在になった人もいた。

 個人的に印象に残っているのは、ジェームス三木や淡路恵子をゲストに迎えた際に、ヘビースモーカーである彼らが堂々とスタジオ内で煙草を吸っていて、それに合わせてマツコたちも喫煙していたことだ。

 テレビの中で煙草を吸うというのは、一昔前のテレビでは当たり前のように見かけた光景だったのだが、最近では全く見られなくなっていた。今では「喫煙するところをテレビで見せるなんてありえない」とテレビ制作者も視聴者も誰もが思っている。でも、なぜテレビの中で煙草を吸ってはいけないのだろうか。いつからそれが当たり前になったのだろうか。

 この事例に代表されるように、『アウト×デラックス』という番組は、さまざまな形で私たちが当たり前だと思い込んでいる常識に揺さぶりをかけていた。お説教臭くないやり方で人々の中に潜んでいる偏見や思い込みを浮き彫りにしていった。その意味ではきわめて知的水準の高い番組でもあった。

 テレビ制作者が万人受けする最大公約数的な面白さだけを求めていくと、番組作りは一つの方向に収束していくことが多い。しかし、『アウト×デラックス』はそのような事態に陥ることなく、長きにわたって独自の路線を貫いてきた。「テレビ界の良心」とも言えるこの番組が終わってしまったのは、一視聴者として本当に残念である。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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