ロシアのプーチン大統領
ロシアのプーチン大統領

 ロシアのウクライナ侵攻が始まってから2週間以上が経過した。停戦協議はいまだ進まず、戦闘の長期化が懸念されているが、世界が注目するのはプーチン大統領が何を考え、これからどのような動きをするかということだろう。『プーチンの実像』(朝日新聞出版)の著者の一人である朝日新聞論説委員・駒木明義氏は、プーチン大統領を直接知る多くの人物を取材し、重要な証言を引き出してきた。ウクライナ侵攻前、駒木氏が取材した元側近は、今回の事態を予測するかのような証言をしていたという。駒木氏が緊急寄稿した。

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「まさか本当に全面戦争を始めるとは」

 ロシアがウクライナ侵攻に踏み切った2月24日、私はとても信じられない気持ちで一杯でした。同時に、今から7年前にこの事態を正確に予言した人物のことを思い出したのです。

 その名は、アンドレイ・イラリオノフ氏(60)。プーチン氏がロシアの大統領に就任した2000年から5年間、経済顧問を務めた人物です。

 当時の彼の主な仕事は、主要国首脳会議(当時はロシアも含めて「G8」と呼ばれていました)で、プーチン氏の代理として、事前の交渉や合意文書のとりまとめにあたる「シェルパ」と呼ばれる役どころです。プーチン氏からの信頼も厚い側近でした。

 私がイラリオノフ氏に会ったのは、2014年10月のこと。場所は、米国のワシントンにあるシンクタンクでした。このときまでに、イラリオノフ氏は完全にプーチン氏から離反し、最も厳しい批判者に転じていました。

 話は当然、プーチン氏が同年の3月にウクライナのクリミア半島の併合を一方的に宣言したことに及びました。そのときに、彼は私に向かってこう断言したのです。

「侵略者は誰かに止められない限り、侵略を続けることを歴史が示している。ナチスドイツも、ソ連も、あなたには悪いがかつての日本もそうだった」

「プーチンはこれでは終わらない。さらに先に進む」

「いつ、どこに向かって、どんな方法で進むかは予見できない。しかし、彼がここで止まることを示すような歴史の前例は一つもない」

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駒木明義

駒木明義

2005~08年、13~17年にモスクワ特派員。90年入社。和歌山支局、長野支局、政治部、国際報道部などで勤務。日本では主に外交政策などを取材してきました。 著書「安倍vs.プーチン 日ロ交渉はなぜ行き詰まったのか」(筑摩選書)。共著に「プーチンの実像」(朝日文庫)、「検証 日露首脳交渉」(岩波書店)

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「そこに奪うものがあるから、奪う」