イラリオノフ氏は、プーチン氏がクリミアを占領した後に、私たちが取材した20人以上の1人にすぎません。取材相手の共通点はただ一つ。プーチン氏と身近に接したことがある、ということです。

 旧国家保安委員会(KGB)の同僚、サンクトペテルブルクの改革派市長の右腕だったときのプーチン氏を知る人、モスクワで破竹の出世を遂げる様子を間近で見ていた人、日本の友人たち……彼らが語るプーチン氏の人間像は、驚くほど多様で「これが同じ人物のことだろうか」と思わせるほどです。

 プーチン氏は本当に謎が多い人物です。「なぜNATOに敵意を向けるのか」「無名の官僚から驚異の出世を遂げた秘密はなにか」「蛮勇を振るう性格はいつからか」「病的とも言える被害者意識の起源は」――こうした疑問を一つ一つひもといていくことが、今回のウクライナ侵攻の動機を知る手がかりになると思います。私たちが取材した側近の証言からは、その一端が垣間見えるはずです。(朝日新聞論説委員・駒木明義)

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駒木明義

駒木明義

2005~08年、13~17年にモスクワ特派員。90年入社。和歌山支局、長野支局、政治部、国際報道部などで勤務。日本では主に外交政策などを取材してきました。 著書「安倍vs.プーチン 日ロ交渉はなぜ行き詰まったのか」(筑摩選書)。共著に「プーチンの実像」(朝日文庫)、「検証 日露首脳交渉」(岩波書店)

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