明美さんと明ノ心くん。明美さんはフィットネスのインストラクター経験や、大学で障害者スポーツを学んだ知見を生かし、発達障害児らを対象とした運動プログラムを独自に考案し「パラリンビクス」と名付けた(写真=明美さん提供)
明美さんと明ノ心くん。明美さんはフィットネスのインストラクター経験や、大学で障害者スポーツを学んだ知見を生かし、発達障害児らを対象とした運動プログラムを独自に考案し「パラリンビクス」と名付けた(写真=明美さん提供)

 8年前、生まれて間もない長男に障害があることを知り泣き崩れた母親。だが彼女は今、障害当事者の子どもが身につけられるタグ型のマークを作るためにクラウドファンディングで資金を集め、長男に着けるだけではなく、無償で配布している。「この子には障がいがあります。」。オレンジ色のタグに書かれたストレートな言葉。母が込めた思いとは。

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「お子さんもう大きいんだから、歩いて階段で下りさせなさいよ」

 3年ほど前だったか。東京都在住の穐里(あきさと)明美さん(47)が、バギー型の車いすに乗った長男と駅のエレベーターに乗っていた時、同乗していた中年女性に、こう強く言われた。

 特別支援学校に通う8歳の長男・明ノ心(あきのしん)君は「ワーデンブルグ症候群」と「自閉症スペクトラム」という複雑な障害を抱える。両耳が難聴で、人工内耳を着けて生活しており、言葉を発することはできない。肢体不自由と呼ばれている症状もあり、身体を自由に動かすことができず、歩いてもすぐ転んでしまうため、外出時は専用のバギー型車いすに乗る。外出先で、突然大声を上げることもある。

 ただ、一見しただけでは元気な男の子で、障害があるようには見えない。冒頭の中年女性は「歩くことができる年齢の男の子がバギーに乗って他人の邪魔をしている」「母親は注意しようともせず、さらには使う必要のないエレベーターに乗った非常識な親だ」と思ったのだろう。

 バスに乗っているとき、男性にバギーを蹴られたこともあったし、舌打ちされたことは数多くある。

「車両が混んでくると、いたたまれなくなり『すみません』と心の中でつぶやきますし、突然、息子が大声をあげたときには私自身がパニックになってしまうこともありました。その一方で、明ノ心が大きくなるにつれ、バギーに乗せて外出する機会が増えていく中で、『この子は歩けないんです』と説明する機会が多くなってきたとも感じていました」

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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周囲から誤解されやすい「見えない障害」