参加者は船旅中、グローバルスクールの生徒となり、スクールの授業や船内で企画された講座やイベントに参加します。不登校やひきこもり当事者などが参加しやすいプログラムで「洋上のフリースクール」とも言えるでしょう。「洋上のフリースクール」なんて世界的にも類を見ないかたちです。

 開校当時は「ひきこもりの人が船旅なんかに来ない」とも批判されましたが、すでに150名以上の卒業生がいます。ブイちゃんは教育の可能性をひとつ、生み出したと言えるでしょう。

 余談ですが、ダメンズウォーカーだったブイちゃんの交際関係はどうなったのでしょうか。

 自分の居場所が見つかると依存傾向はなくなり、すてきな人と出会うことになります。それが職場で出会った室井舞花さん。おたがいに人生の伴侶にと選びあい、結婚式を挙げています。これまでの恋人たちは異性でしたが、結婚式のお相手は同性だったのです。このあたりの顛末は、室井舞花さんの著書『恋の相手は女の子』 (岩波ジュニア新書)にくわしく書かれています。

 さて最後のまさかは「女子会の全国展開」です。

 グローバルスクールを開校後、ブイちゃんは「一般社団法人ひきこもりUX会議」の立ち上げ人の1人となり、ひきこもりに関する事業を展開します。事業の中でもっとも成功したのが「ひきこもりUX女子会」の開催でした。

 ひきこもりが集まる自助グループは全国に点在していますが、集まる人は、ほぼ男性。そこでブイちゃんらは、ひきこもり女性だけで集まれる場を作ったのです。日本では数少ない例で、これが大きな反響を呼びました。

 ひきこもりでも、同じ経験者がいる場に行きたい女性はたくさんいたのです。こうしたニーズをブイちゃんらは自身の経験から知っており、ひきこもりUX女子会は反響を呼ぶことができたのです。

 ひきこもりUX女子会の初開催は2016年。「10人でも集めまれば」と思っていた女子会は、初回から30名弱が参加しました。続けて開催した2回目には80名強が参加。多くの当事者が表参道に殺到しました。うわさはすぐに広まり、全国各地から女子会の開催依頼が届き、累計にすると4000名もの当事者が参加しているそうです。

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「合わせる」よりも「転身」が必要なときもある