一方で、偏差値を上げるためにがんばるという行為は、外発的意欲(金銭的報酬や他者による称賛などを目的とする行動意欲)を誘発しやすいといわれています。

 日本では、授業で教師から知識を伝えられ、それをどれだけ覚えてきたかをテストなどで評価し、点数が高い生徒が「優秀」とされがちです。

 さらに、テストの平均をもとに偏差値を計算し、生徒一人ひとりに、平均よりどのくらい自分が上かまたは下かを知るシステムになっています。

 結果、下の人は勉強をがんばって平均に収まるようにし、上の人は一番を目指してさらにがんばる傾向が強いようです。
 
 これが社会に出てからも続くと、「営業成績」「売上」が平均より高くなるための努力をするようになることでしょう。

 また、ライバルとなる対象の違いも大きく影響します。平均や偏差値による教育は、要するに「人との比較」によって成り立つものです。
 
 このため、ライバルは「自分以外の相手(他人)」です。

 他人よりも優れていることは素晴らしいことではありますが、それが必ずしも「自分が優れている」と同義ではありません。あくまで「他人と比較したとき」の話にすぎないのです。

 一方で、フィンランドなどが行う「学び続けられるための能力を身につける教育」では、ライバルの対象は「自分」です。

 教室にクラスメートがいようと、クラスメートとともに問題解決に取り組んでいようと、皆ライバルは自分自身なのです。自分をライバルにしながら学び続けるのです。

 「学び続けられるための能力」を鍛えるためには、自分をライバルとしつつ、「学ぶことの喜び」(内発的意欲)を知らなければいけません。
 
 どんなに人よりも点数が高かろうが、「学ぶことの喜び」を知らなければダメなのです。

 学ぶことの喜びを知ることで、相手と比較した自分の能力ではなく、自分自身の個性を発揮し、創造性を高めていくことができるのです                          

【プロフィール】
大黒達也(だいこく・たつや)
東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構 特任助教。医学博士。1986年青森県八戸市生まれ。オックスフォード大学、マックスプランク研究所(独)、ケンブリッジ大学などを経て、現職。専門は音楽の脳神経科学。現在は、神経生理データから脳の創造性をモデル化し、創造性の起源とその発達的過程を探る。また、それを基に新たな音楽理論を構築し、現代音楽の制作にも取り組む。著書に『芸術的創造は脳のどこから産まれるか?』(光文社新書)がある。