■無一郎の「記憶」と性格

 時透無一郎には、有一郎(ゆういちろう)という名の双子の兄がいた。時透兄弟は、10歳のころに両親を亡くしており、その1年後に兄・有一郎が鬼に喰われた。それ以来、無一郎は記憶が欠けてしまい、最近の出来事もうまく思い出せない。この「記憶」の欠損は、無一郎の性格にも影響を及ぼしている。

 表面的に激しい感情はみせないが、無一郎は他人に辛辣で、何かを「邪魔されること」を極端に嫌うようになる。普段はマイペースを崩さない無一郎だが、何かを中断させられた時、誰かに邪魔をされた時に気性の激しさをのぞかせる。

 コミックス6巻の「柱合裁判」では、裁判の内容そのものには無関心だが、炭治郎が産屋敷耀哉の話を中断させた際、「お館様のお話を遮ったら駄目だよ」と、石を炭治郎の顔面に命中させている。

 コミックス12巻では、訓練に協力しなかった刀鍛冶の少年に対して、手刀を入れている。非戦闘員の、自分よりもさらに幼い少年にも、一切ちゅうちょしない。これほどに、無一郎が「邪魔」を嫌う理由は何か。

■無一郎には「時間がない」

 コミックス14巻の回想シーンでは、無一郎が鍛錬を始めたころの場面が描かれている。これは、鬼の襲撃で兄を亡くした直後、自らも大けがをおった時のことである。頭部・手、そして胴体にも袈裟がけに包帯を巻いており、この様子から、彼はけがが完治しないままに、激しい訓練を始めたことがわかる。

 そもそも、無一郎はいったい何歳で「柱」になったのか。彼のセリフに「1人になったのは11歳の時だ」とあること、無一郎が8月生まれであること、鬼の襲撃が夏であったこと、訓練を始めて2カ月と書かれていることから、11~12歳で「柱」になっているはずだ。現在は14歳。明らかに、彼が剣士としての「肉体のピーク」を迎えるのに、あと数年はかかる。

 戦闘には、年齢を含む身体的条件が厳然と影響する。「幼い」無一郎が、肉体的マイナス要素を埋めるためには、短期間で戦闘を重ね「経験値」を積んでいくしかなかった。そう、だからこそ無一郎はわずかな鍛錬の時間も惜しく、何よりも「邪魔」を嫌ったのだ。

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腕を失っても戦いをやめない無一郎