蛇柱・伊黒小芭内(画像はコミックス19巻のカバーより)
蛇柱・伊黒小芭内(画像はコミックス19巻のカバーより)

鬼滅の刃』には、主人公・竈門炭治郎らとともに戦う、鬼殺隊の主力隊士「柱」たちが登場する。「柱」のうち、伊黒小芭内は、異色の「蛇の呼吸」の使い手だ。最強剣士である「柱」たちもまた、生い立ちや過去に深い傷を持つ人物が多い。伊黒も、幼少期に「蛇型の鬼」にとらわれていた過去があった。にもかかわらず、なぜ伊黒は「蛇柱」になることを選んだのか。【※ネタバレ注意※】以下の内容には、アニメ放映前の、既刊コミックスのネタバレが含まれます。

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■鬼を滅殺する戦闘術と「呼吸」

『鬼滅の刃』に登場する、鬼を滅殺するための組織・鬼殺隊。その中でも、圧倒的戦力を持っている人物たちは「柱」と呼ばれる。登場する9名の柱は、「「水」「炎」「風」「岩」そして、それらから派生した「蛇」「恋」「霞」の呼吸をあやつる。さらに「花」から生まれた「蟲」、「雷」の派生系の「音」の呼吸がある。

 そもそも「呼吸」とは、人間に内在する力を増幅させ、鬼という化物と対等に戦うために必要なものである。この「呼吸」は、剣士それぞれの性質に合ったものが選択される。指導した師の「呼吸」を、そのまま弟子が継承することもあるが、その人物に適した「呼吸」でないと、使いこなすことができない。

 つまり9人の「柱」の「呼吸」には、それぞれ組み合わせに意味があるのだが、ひとりだけ、なぜその「呼吸」を選択したのか、強い疑問を抱かせる人物がいる。蛇柱・伊黒小芭内(いぐろ・おばない)だ。

■伊黒小芭内と「蛇」との因縁

 伊黒小芭内の初登場シーンは6巻・第45話「鬼殺隊柱合裁判」である。木の上で枝にからみつくように横たわって話すその様子は、恋柱・甘露寺蜜璃(かんろじ・みつり)から「ネチネチして蛇みたい」という感想を持たれている。そして、伊黒はいつも首にオスの白蛇・鏑丸(かぶらまる)を巻きつけていることからも「蛇柱」らしいキャラクターといえる。

 しかし、この伊黒には、かつて「蛇型の鬼」に監禁されていた過去があった。彼を苦しめ続けていた「鬼」が蛇の姿だったにもかかわらず、なぜ伊黒は「蛇柱」を名乗ろうと思ったのか。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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