3年次からは、ロボット工学のゼミに所属。実は予防医学のゼミに入れるものだと思っていたのですが、担当教授がその年度で退職することになって新規のゼミ生の受け入れを停止するというんですね。困り果てて同級生に相談したところ、ロボット工学の教授のゼミは人気があるよと。ロボットをやろうなんて考えたこともありませんでしたが、調べてみるとロボットの活用範囲は広い。そこで教授に「予防医学とロボットを融合させたら、いろいろなことができると思う」と熱弁をふるい、ゼミに入れていただきました。

 さっそく取り組んだのが、「ロコモ予防ロボット」の開発です。運動習慣がロコモティブシンドローム(運動器の障害や衰えで要介護になるリスクが高まる状態)を防ぐことは多くのデータから明らかなのに、簡単な運動でも毎日続けるのは難しい。それを促すための装置を作ろうと。

 ゼミの2年間で作ったロボットは課題が山積みで完成とはいいがたいものでしたが、国際ロボット展で展示したところ、ある企業の方が「いい取り組みだから、この先修士に進んで研究を続けるなら協力しますよ」と声をかけてくださったんです。

 それまで大学院がどのようなところなのかすら知らなかったのですが、この一言がきっかけで、大学院への進学を決意。修士課程で、定期的にスクワット運動を呼びかけるロボット「ロコピョン」を完成させました。

 現在は博士課程の5年目。ロボット工学から領域替えをし、「老化学」の研究をしています。これも成り行きで、「修士課程を修了したあとももう少し学びたい」と考えていたのですが、ロボット工学の教授は博士課程を受け持っていなかったんですね。

 しかしちょうどそのころ、老化学の教授が早稲田に着任。博士課程も受け持つと知って、ロコモや抗加齢を考えるなら老化学の研究室で細胞レベルまで踏み込んで研究を進めたくなり、教授に掛け合いました。「カロリー制限をすると長寿になる」という過去の研究に基づき、マイルドな食事制限をすると細胞にどのような遺伝子が発現するかといったことを、マウスを使って調べ、論文を執筆しています。

 ロボットの研究も継続中。新たに声をかけていただいたAIベンチャー企業と共同でロコピョンとは異なる介護予防ロボットの開発に取り組み、実用化を目指しています。

 今は老化学もロボットも研究が面白くて、・壮大な趣味・になりつつあります。博士課程まで学び続けてきましたが、私が望んだのは「大学に入学しよう」と思ったことぐらい。その後は自然と道が開け、その流れにあらがわずに進んできただけ。今後思わぬ方向に行く可能性もある。ゴールが見えないからこそ楽しくて、学び続けたいと思うのかもしれません。

#プロフィール
いとう・まいこ/1983年アイドル歌手「伊藤麻衣子」としてデビュー。現在はドラマ、情報番組、バラエティー番組などに多数出演。2014年早稲田大学人間科学部eスクール健康福祉科学科卒、16年同大学院人間科学研究科修士課程修了、現在博士課程在籍。ロボット工学などを通してロコモティブシンドロームの予防を研究している。

(構成・文/谷わこ)