「先に述べたように、感染対策は徹底していたうえでの出来事でした。そのうえで出てしまうことは、仕方がありません。逆に、『よくここまで感染者を出さなかったな』という思いもあります」

 最初にPCR検査で陽性と診断されたのは、若手の男性看護師だった。

「熱などの症状はなかったそうですが、患者さんの排泄物の処理をしている際ににおいを感じなかったので、検査を申し出たそうです。周囲への影響などを考えてしまい、言い出しにくい面もあったはずですが、適切な判断だったと思います」

 新型コロナの感染防止を難しくしている要因のひとつには、この「無症状」がある。

「別のケースですと、新型コロナではない疾患で入院していた患者さんが退院し、そのまま施設に入ることになりました。その際、施設から念のためにとPCR検査の要望がありました」

 検査を実施すると、その患者は無症状にもかかわらず陽性だった。
「その後、濃厚接触者である看護師にも陽性が出て、その看護師の接触者にも、と数珠つなぎで感染者が見つかりました」

 濃厚接触者となった医療スタッフは結果が出るまで診療は行えず、その影響は広範囲に及んだ。

「私たちが診ているのは、新型コロナの患者さんだけではなく、他の疾患の患者さんのほうが多い。そこに影響が出るのが、問題だと考えています。流行の第3波により、新型コロナの病棟が増えたことで、他の疾患の患者さんへの影響はより大きくなってきています」

 入院患者への面会の禁止は、新型コロナだけでなく、他の疾患も同様だ。

「家族の面会があれば、会話もできますし、患者さんへのちょっとした手助けもしていただけます。それをすべて現場の人間のみで行うことになりました。ほか、感染防止のため、リハビリテーションなども密の回避が前提になり、やりにくくなっています」

 そのため、特に高齢者の場合、退院時にADL(日常生活動作)の低下や、認知症の進行がみられるケースも出てきており、患者の家族から不満の声があがることもある。

「こちらも精いっぱい対応しているのですが、家族の方の気持ちもわかります。日本でこれまで普通に行われていた医療ができない状況は、本来あってはならないことですから」

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