食べ物や異物が、誤って気管に入ってしまった状態のことを誤嚥(ごえん)と言いますが、に限らず食べ物を誤嚥することによる死亡は、高齢になればなるほど生じやすいのです。

 どうしてなのでしょうか。1つ目に、咀嚼する力の低下です。入れ歯になることで、あごを安定させる力が弱まり、かむ力が低下してしまいます。2つ目は、唾液量の減少です。唾液自体の分泌も加齢とともに少なくなってしまうため、飲み込みにくくなってしまいます。3つ目は、飲み込む力の低下です。飲み込む力の減弱により、喉に食べ物が残りがちになり、そんな状態で呼吸をすると、食べ物が食道ではなく、気管の方に入ってしまい詰まってしまうというわけです。4つ目は、万が一、喉に食べ物が詰まってしまった場合に、咳をすることで押し返す力の低下です。

 加齢に伴う口腔内や喉の機能の弱まりが、不慮の窒息に繋がってしまうというわけです。

 餅は、私たちがちょうど口の中に含んで食べやすい温度では、餅同士がよりくっつきやすくなり、口腔内にも粘りつきやすくなっています。餅を食べる時には、小さく切って、無理なく食べることができる大きさにすること、お茶などで喉を潤してから食べること、ゆっくりとかんでから飲み込むことが大切です。

 餅以外だと、例えば、節分に食べる恵方巻や、ひな祭りに食べるちらし寿司といった寿司による窒息事故の報告もあります。「食品による窒息の要因分析」調査によると、野菜・果物、肉、魚、ご飯、パン、餅、菓子類の順に、窒息が多くみられています。餅に限らず、あらゆるものが窒息する原因になっていることが、よくわかります。

 2020年9月には、4歳男児が給食で出たブドウを食べた際、喉につまらせて死亡するという痛ましい事故がありました。
 
 実は、乳幼児も、食べ物を細かくかみ砕く能力がまだまだ十分ではないため、高齢者同様、食べ物による窒息が起きやすいことがわかっています。

教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」によると、プチトマト、乾いたナッツ、豆類(節分の鬼打ち豆)、うずらの卵、あめ類、ラムネ、球形の個装チーズ、ぶどう、さくらんぼ、餅、白玉団子、いかなどが、誤嚥や窒息につながりやすい食べ物として挙げられています。正月の餅、そしておせち料理に欠かせない黒豆や白豆など、注意すべき食品はたくさんありそうです。

 最後になりましたが、年齢を問わず、食べ物を喉に詰めないように注意することは大切です。どんな食品でも、喉に詰める可能性はあります。どうか、無理なく食べることのできる分を口に含み、しっかりかんでから飲み込むようにしてくださいね。

 新型コロナウイルス感染症が一刻も早く収束し、2021年が皆様にとってよき年となりますように。

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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