一見すると「虐待を生き抜いた子」「少年院にいた子」の話に見えるかもしれないけれど、同じ経験をしていない人との間にも、ちゃんと共感がある。結生さんの心を描くことで「私と同じ」を感じてもらえる気がして、一番大事にしたのはやっぱりそこです。人としての感情は結生にも同じようにあって、同じ社会を生きてる人であることを伝えられるはずだという思いがありました。

結生:本当は、人間みんな弱っちい部分があって、「自分を認めてほしい」っていう気持ちがあって、そういうのって誰にでも、私にだってあるし、読んでくれている人にもあるはずなんですよね。だから、「私と違う世界の人の話だな」って思ってこの本を読み進めていても、途中で、「この気持ちわかるな」って、自分と重ねて共感してもらえる部分があったらいいなと思います。

 この本の示しているものはシンプルだと思います。あやちゃんとの関係がそうであるように、誰か一人とでもいいから心地いい関係性があるだけで人生って生きやすくなるし、視野が一気に広がるっていうこと。心地いいってどんな関係性かっていうと、「あっち」と「こっち」とか、属性じゃなくて、単純に「好き」っていう気持ちで繋がるみたいなこと。それって、簡単そうだけど、みんな固定概念に縛られている部分が多くて案外難しいんじゃないかな。

◎結生 (ゆうき)
1996年生まれ。生まれてすぐに実父のDVから乳児院に預けられ、児童養護施設で育つ。一時的に実母と継父と暮らすが虐待を受け再び施設へ。度重なる非行から少年院に入り、出院後は服飾の専門学校に進学。その後、教育系、福祉系NPO勤務などを経て現在はアパレル会社で働く

◎小坂綾子 (こさか・あやこ)
1974年、京都府生まれ。新聞社勤務を経て、2017年からフリーライターとして活動。教育、文化、社会福祉などをテーマに取材し、新聞や雑誌、ウェブメディアで執筆する