もうひとり、薬師丸ひろ子も節目での独唱が光った。戦争が終わり、新たな時代が始まることを、彼女が約3分、焼け野原で賛美歌をうたうことで象徴させたのである。デビュー前の合唱部経験と長年の女優経験によって培われた正統的かつ艶のある歌いっぷりがドラマの舞台を鮮やかに反転させた。

 他に、さすがと思わせたのが、ミュージカル畑の役者たちだ。山崎育三郎に古川雄大、井上希美、小南満佑子。「長崎の鐘」などを歌った柿澤勇人もモデルとなった藤山一郎のクルーン唱法をほうふつとさせた。ちなみに、前出の吉原も劇団四季出身の名舞台俳優だ。

 一度きりの出演ながら、宮路オサム、徳永ゆうき、山田麗といった歌手たちも存在感を発揮。父親のコネで歌手になるお坊ちゃんを演じたジュノンボーイ出身の坪根悠仁も、デビュードラマながら、そこそこうまいけどちょっと薄っぺらい感じが絶妙だった。

 また、ヒロインの音を演じた二階堂ふみも大健闘。彼女はストーリーにも助けられた。というのも、モデルとなった古関金子はプロ歌手になるが、ドラマではなれないという展開だったからだ。「本物」にはあと一歩届かないもどかしさを、彼女のアマチュアとしては最高に頑張ったといえる歌唱はけなげに体現していた。

 その点、不世出の大歌手・三浦環がモデルの役を演じた柴咲コウは苦労したようで、番組サイトのインタビューでもこう語っている。

「世界的なオペラ歌手として圧倒的な歌声を聴かせ、幼い音ちゃんにあこがれを抱かせる……というのは、かなりの試練でした(笑)」

 とはいえ、オペラの特訓をしたおかげで、歌謡曲の「船頭可愛や」については「声の音域が広がったからか、歌いやすかった」とも。

 あと、終盤に登場した宮沢氷魚についてはミョーな期待をしてしまった。主人公の娘が恋に落ちるロカビリー歌手の役ということで、音楽シーンの変化を告げる存在でもある。それをTHE BOOMの元ボーカル・宮沢和史の息子が演じるとあって、本格的なものになるかと思ったら、意外にも初々しい歌いっぷりだった。

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10回以上あった謎の「主題歌外し」