だが、4回も連続ではずされては、主題歌の立つ瀬がない。それに、主題歌には重苦しい雰囲気をリセットする効果もある。それを確信させられたのが、アーカイブ枠で現役朝ドラの前に再放送中の朝ドラ「澪つくし」の第57回を見たときだった。

「澪つくし」のテーマ曲はインストゥルメンタルだが、それとは別に「恋のあらすじ」という挿入歌があり、エンディングで時々流される。牧歌的というか、じつにのどかな優しい曲だ。ところが、この回のラストは共産主義の活動家がむごたらしい拷問を受け、検察庁に送られる場面。その直後に、この曲が流れたのだ。

 ネットでは「なぜこのタイミング?」という声も見かけたが、これこそが朝ドラらしさだろう。朝ドラには日本の朝を明るい気分にするという役割があり、そのためにも主題歌や挿入歌は有効だ。重苦しい雰囲気をリセットして「これはフィクションです」的なおことわりも示せるのである。

 そういう意味で「エール」の主題歌が10回以上もはずされたのは残念というほかない。

 かと思えば、コンサート仕立ての最終回ではあるジャンルの歌がはずされた。古関が得意とした軍歌である。司会者役の窪田正孝は最後に、

「古関裕而さん、たくさんのすてきな曲を本当にありがとうございました」

 とあいさつしたが、そこに軍歌が含まれなかったのは、晴れの最終回にそぐわないという意識からだろうか。その選曲からは、戦争と平和のあいだにある「断絶」を感じてしまった。現代日本にありがちな感覚として、戦争関連の文化を賛美するのはまずいという忖度が働くのかもしれない。

 とまあ、個人的に小さな不満はあるものの、音楽ドラマとしての「エール」は5段階評価で4.5はつけられる出来栄えだったと思う。特に、完成した曲を流しながら、その誕生につながった感動的な場面を見せるなどの演出は有効だった。

 また、この朝ドラは短編の積み重ねのような趣があり、次々と生まれる名曲がそれぞれのテーマ曲のようでもあった。たとえば、人気キャラの多いアニメなどではそれぞれがフォーカスされるパートごとにテーマ曲が作られ、エンディングで流されたりする。それと同じぜいたくさを感じたものだ。

 というわけで、音楽ドラマはやはり面白い。しかも、朝ドラ向きの題材は豊富だ。昭和歌謡の歌手や作曲家、作詞家など、エピソードの宝庫である。

 近いうちにまた「エール」のような朝ドラに出会えることを楽しみに待ちたい。

宝泉薫(ほうせん・かおる)/1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

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宝泉薫

宝泉薫

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

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