そんな経緯から、明菜の失速は近藤との破局のせいだとする見方が存在する。ファンは特に、そう思いたいようだ。だが、本当にそうなのだろうか。

 というのも、破局はもう30年前の話だ。その後、芸能界では貴乃花・宮沢りえ、小室哲哉・華原朋美といったカップルも破局した。これらの「平成芸能界三大破局」は、女性のほうが捨てられた構図も似ているわけだが、宮沢や華原のファンは明菜のファンほど、過去を引きずってはいないように思う。

 その理由はもっぱら、宮沢や華原が次のステージに進めているからだろう。結婚したり、離婚したり、出産したり。失恋について、女性は上書きができるとよく言われるが、それを実践できている感じだ。いや、男性である近藤もそれができている。

 しかし、明菜の場合は破局のあたりで人生の時間が止まってしまった印象というか、そこが彼女を被害者とする見方の固定につながっているのだろう。

 ただ、その見方は彼女に失礼かもしれない。気の毒な被害者ではなく「偉大なる敗者」としてとらえたほうがよいと思うのだ。

 というのも、あの破局はスター同士のパワーゲームの結果でもあった。当時は「ザ・ベストテン」(TBS系)などで毎週、大々的に芸能人の順位づけがされるほど、今よりずっと個々のぶつかりあいが激しかった。そういう状況は無意識にせよ、ライバルを蹴落としたい願望を強めることになる。

 そんななか起きたのが、近藤と松田聖子のニューヨーク密会だ。発覚は明菜の自殺未遂の5カ月前のことで、その引き金になったともされる。結果として、聖子は「歌謡界の女王」というポジションを奪われつつあった明菜にダメージを与えることができた。また、近藤にとっては情緒不安定だった明菜と離れるきっかけとなり、その後の危険を回避し、ジャニーズで地位を築くことにつながったのである。

 もっとも、明菜がそこまで大きな存在になれたのは、先にスターになった聖子や近藤の影響によるところもある。芸能史上突出した「正のオーラ」で売れた聖子の対抗馬として、やはり芸能史上突出した「負のオーラ」を持つ明菜は格好の存在だったのだ。しかも、明菜は前時代のスター・山口百恵に憧れており、ファンもそのイメージを重ね合わせた。近藤とのカップル成立は、百恵的なシンデレラストーリーの再現という夢を、明菜にもそのファンにも抱かせたわけだ。

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インタビュアーが寝込むほどの「負のオーラ」