麻疹(ましん)

 麻疹ウイルスによる感染症で、はしか、いなすりともよばれます。

 疱瘡と同様に感染力が強く、発熱や咳などの症状を経て、高熱とともに全身に赤い発疹ができます。

 江戸時代には13回の流行があり、致死率が高かったことから「命定めの病」と恐れられました。

 一般的に幼児がかかることが多く、この時に自然に免疫を獲得するのが通常でした。近年は大きな流行が少なかったため、成人になって感染する例が目立っているそうです。

 江戸時代にとくに対策法はなく、大流行が起こると、麻疹にかからないためのお守りとして、浮世絵師が描いた「麻疹絵(はしかえ)」が出回りました。

 イラストに添えて、当時の民間療法に基づいた予防法や、軽症で済むためのまじないが記載されていました。

 また、麻疹の治療によい食物が列挙され、食養生の考えも示されています。なお、麻疹の特効薬はいまだになく、ワクチンによって発症を抑えるしかありません。

虎列刺(コレラ)

 コレラ菌による感染症で、激しい下痢や嘔吐を引き起こします。

 症状の進行が早く、脱水症状により2~3日中に死に至ることも多かったため、あっけなく死ぬという意味で「コロリ」とも。感染の速さから、一日に千里を走るとされた虎や恐ろしい狼になぞらえ、「虎烈刺」や「虎列刺」、「虎狼痢」などの漢字表記が用いられました。

 日本では、幕末から明治にかけて大流行。現在は、先進国でのコレラ患者発生の報告は少なく、発展途上国への旅行者や輸入食品を介して感染するケースが大部分とされます。

 コレラはもともとインドの風土病でした。日本で最初に流行したのは、江戸時代後期の1822(文政5)年。当時は民間療法や加持祈祷に頼るしかなく、コレラよけの絵も作られました。

 58(安政5)年の流行の際には、オランダ人医師による、解熱剤と阿片(あへん)を使った治療法が勧められています。

 さらに外国人医師の書物を翻訳した『虎狼痢治準(ころりちじゅん)』を通じて、最新の治療法が紹介され、しだいに西洋医学によるコレラ対策が実施されました。

※漢字エンタメ誌「みんなの漢字」2020年7月号から抜粋