武田:でも、撮れ高を意識していたら、「問いかけ」「狙い」が重視されると思うんです。こういうふうに問えば、追えば、撮れ高が確保できるだろうって。でも、問うことより、耳を傾けることを優先されている。

上出:撮れ高の考え方がいままでと少し違うのかもしれません。ああいった場所に身をおけば、何が返ってきても成立すると思っているので、行く前にはほぼ何も想定していません。むしろ、予断を排してその場に臨んだほうがより楽しくなる。

<会食相手の素性も大物マフィアという以外にほとんど知らなければ、劉さんと黄さんがいったい何者なのか、どうしてマフィアと繋がりがあるのか、そしてこれから何が行われるのか、何もかもわからないまま現場に突入するのはあまりに恐ろしい。>(『ハイパーハードボイルドグルメリポート』より)

武田:カメラを回していて、こちらから何か仕掛けて、相手の反応を引き出そうという誘惑にかられることはないんですか。

上出:そんなにないですね。ぼくがそこに存在するだけで相当な刺激になっているので、それで十分かなと。あとは、ほんとに腹をすかせてるぐらいで。

武田:リベリアの元少年兵たちが住む墓地に行ったときに、彼らと一触即発の緊迫した雰囲気になり、上出さんが柵越しにカメラを奪われます。その時、上出さんが一瞬だけ映るんですが、驚くでもなく、真顔なんです。

上出:(笑)。めちゃめちゃ真顔です。

武田:びっくりした顔をしているほうがまさに「わかりやすい」んだけど、とんでもないことに遭遇すると、人って真顔になるんだなと。でも、視聴者としては、その真顔に引き込まれるんです。

上出:あの表情はリアルですよね。すごい、そんな細部まで見てるとは。

武田:細部しか見ていない、という嫌なヤツかもしれません。

上出:ぼく実は今日、びびりながら来たんですよ。この本を読んだあとだと、何を言っても怒られそうだなと思って。だって、(『紋切型社会』のAmazonページに)悪いレビューを書いた人のことを、過去のレビューまで掘り返して、めちゃめちゃ細かく分析しているんですよ。「この人は『モンスターエナジー355ml×24本』に星5つをつけている」とか。

武田:はははは。そうでしたね。

上出:全方面に突っ込んでいってるから、怖いもんないのかなと思って。

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相手をじっくり観察して、その上で足を踏み入れれば…