武田:Amazonレビューはさておき、相手をじっくり観察して、その上で足を踏み入れれば、たちまち怒鳴られ、追い払われる、なんてことにはなりにくいですよね。

上出:ああ。なるほど。

武田:この人はどういう言動を重ねてきたのだろうかと探ってみる。それが、上出さんだったら「相手の話を聞くこと」だし、自分の場合は「その人が書いてきた、発してきた言葉を読むこと」だと思うんです。何も特別なことではないですね。

<自分がその小説を理解できなかったのであれば、なぜわからなかったのかを主体的に語るべきだとは思うのだが、自分が信頼している芸人や番組が薦めたのに理解できなかったことをただただ嘆いてしまう。それこそが嘆かわしい。>(『わかりやすさの罪』より)

上出:そうですね。

武田:日頃、どういうわけか、「ひねくれてる」とか「怖い」とか言われるんですが、こんなにピュアな人間はいないと思っているんですけどね。

上出:(笑)そう……なんですか?

武田:だって、疑問に思ったことを「疑問に思っています」と書いているだけですからね。「疑問に思っているけど、敵にするのは嫌だから言うのはやめておこう。あっ、そうだ、共通の知り合いもいたな。うんうん、やっぱり、これはやめておこう」なんて理由付けをして言わないほうが、どうかしてますよね。

上出:不健康ですね。

武田:その行為こそ、「皮肉屋」だと思うんです。ところが、「思っているけど言うのをやめておこう」と制御するほうが、この社会では「イイ人」にカテゴライズされます。どう考えても悪人じゃないかと。

上出:「コミュ力がある」とされている人は、制御がうまい人かもしれない。

武田:上出さんが辺境地で出会ってきた人たちは、この日本の基準でいえば「コミュニケーション力がない」と規定される人が多いのかもしれません。この本を読んで、「この人たち、おもしろい」と感じたのであれば、コミュ力を重視するのではなく、彼らのようなストレートな物言いへと変わっていってもはずなんです。だけど、やっぱりどこかで、遠く離れた場所での出来事、として済ませてしまうのかもしれません。

上出:彼らとぼくらの間に明確な境界線はないと思うんですけどね。(構成/長瀬千雅)

※「なぜ辺境の地で“飯”なのか?テレ東の異端児『ハイパーハードボイルドグルメリポート』上出遼平の思い」へつづく

■武田砂鉄(たけだ・さてつ)
1982年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年からフリーライターに。新聞への寄稿や、週刊誌、文芸誌、ファッション誌など幅広いメディアで連載を多数執筆するほか、ラジオ番組のパーソナリティとしても活躍。9月28日スタートの新番組『アシタノカレッジ』(TBSラジオ、月~金、22時~)の金曜パーソナリティを務める。

■上出遼平(かみで・りょうへい)
1989年、東京都生まれ。2011年株式会社テレビ東京に入社。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画、演出、撮影、編集まで番組制作の全課程を担う。空いた時間は山歩き。