こうした取り組みで信頼を得たためか、この数年、同社と公式側との接点は増えている。エヴァの公式イベント「0706作戦」の配信システムを同社が請け負うなど、タッグを組むまでになった。

 8月末には、作中の舞台「第3新東京市」のモデルとなった箱根町と、災害時支援業務協定(防災協定)を締結。箱根町から要請を受けた場合は、同社の特務機関NERV災害対策車を派遣し、災害時の電力と通信機能を提供するという。ネット上ではNERVと第3新東京市が手を組んだと喜ぶファンの声も多く挙がった。

 エヴァをこよなく愛する一人として、ファンに向けたさりげない計らいも。給電・通信を行う災害対策車両のナンバープレートは、「3310」(み・さ・と)。作中で葛城ミサトが運転する車のナンバーと同一にした。根底にあるのは、ファンとしての愛と、名前を貸してくれたエヴァに対する感謝の思いだ。

「『世の中に役立つもの』を作りながら、『エヴァの認知度・ブランド向上』を実現できれば」(同)

 エヴァのファンからは「(NERVのオペレーターを務める)伊吹マヤの声でアナウンスしてほしい」「(作中で頻繁に使用され、「エヴァフォント」として知られる)極太明朝体をもっと使ってほしい」といったように、エヴァ要素をふんだんに使ってほしいという要望も届いている。

 自身もエヴァの大ファンである石森さんだが、「視認性が最優先。あまりやりすぎると、災害アプリとしての機能がそがれてしまう」と冷静だ。視認性を犠牲にしてでもエヴァの世界観に浸りたいというファンには、「将来的には(追加のデザインをダウンロードする)拡張パックのような形で応えてあげられないか、公式と話をしています」と優しさも見せた。

 ファンサービスも大事だが、機能性を優先させる背景には、冒頭で紹介したユーザーのように命綱として利用してくれる大勢の人いるからだ。

 いつからか「次なる災害から人類を守る」という特務を担っている現実世界のNERV。作品世界に負けず劣らずの創意工夫で、人類を危機から救ってくれるかもしれない。(取材・文/AERAdot編集部 飯塚大和)