(イラスト/今崎和広)
(イラスト/今崎和広)
『新「名医」の最新治療2020』より
『新「名医」の最新治療2020』より

 日本人の死因の上位を占める肺炎。なかでも誤嚥性肺炎は、のみ込む力が低下する高齢者に多く発症し、治療後も繰り返す。高熱などの典型的な症状が表れにくく、気づいたときには病状が進行していることが少なくない。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』では、誤嚥性肺炎の原因や治療、リハビリについて、専門医に取材した。

【データ】誤嚥性肺炎にかかりやすい性別や年代は?

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 ものをのみ込む働きを「嚥下」という。誤嚥性肺炎は、本来食道へ運ばれるはずの唾液や食べ物が気管に落ち(誤嚥)、中に含まれている細菌やウイルスが肺に炎症を起こす感染症だ(イラスト参照)。

 東京都健康長寿医療センター・呼吸器内科部長の山本寛医師はこう話す。

「日本人の肺炎死亡者数に占める65歳以上の高齢者の割合は、97・9%と極めて高い。その多くが誤嚥性肺炎です。80代以上の肺炎は、ほぼすべてが誤嚥性肺炎と言われています」

 通常、のみ込むときには気管がフタ(喉頭蓋)で閉じられ、同時に食道が広がるので、食べ物や唾液が気管に落ちることはなく、落ちかけたとしても反射的に咳が出て口に戻ってくる。しかし加齢や病気で嚥下機能が低下したり、咳反射が鈍くなったりすると、誤嚥を起こしやすい。また高齢者は、肺炎球菌が鼻や口にすみついている人が多いだけでなく、歯周病の罹患率も高いなど、口の中は誤嚥性肺炎の原因菌が繁殖しやすい環境に傾いている。さらに年齢とともに、感染に対抗する体力や免疫力が低下する。

「誤嚥というと食事中にむせる様子を想像しがちですが、実際は睡眠中など知らず知らずのうちに、口の中の細菌が唾液とともに気管や肺の中に垂れ流しになり、じわじわと肺炎を発症するケースが多くを占めています。そういった患者さんのほとんどは、普段の食事でものみ込みが悪くなっています」(山本医師)

 高齢者の肺炎は呼吸不全になりやすいだけでなく、心不全をともなうこともあり、早めに発見して治療することが重要だ。しかし誤嚥性肺炎では、高熱や咳といった典型的な肺炎の症状は表れにくい。よく見られるのは、「37度台半ばの発熱」「ハアハアと呼吸が浅く速い」「からだが異常にだるい」「食欲がない」という症状だ。「ボーッとして反応が鈍い」「失禁する」といった意識障害が表れることもある。

「いつもと違う状態が2日以上続いている場合は、受診してください。肺炎かどうかはX線画像などで診断できます」(同)

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