■自覚症状がないケースがほとんど

 大動脈瘤が膨らみ続ければ破裂し、救命が困難なほどの大出血を起こす。ここまで進めば激しい胸痛などを伴うが、それまでは大動脈がいくら膨らんでも、とくに自覚症状は出ない。まれに症状が出るケースを山本医師が紹介する。

「遠位弓部の近くには、声帯をコントロールする神経が通っています。遠位弓部に瘤ができて膨らみ、この神経を圧迫すると声がかすれることがあります。声のかすれで受診した耳鼻咽喉科から紹介され、当院を受診されるケースもあります」

 自覚症状がないため、大動脈瘤は、ほかの病気のために受けた胸部の検査から偶然見つかるケースがほとんどである。胸部X線検査などで大動脈瘤が疑われる異常が見つかった場合、CT(コンピューター断層撮影)検査により診断が確定する。

 要治療とすべき瘤の大きさはどのくらいか。大動脈瘤は5・5センチを超えると破裂の危険性が急速に高まり、破裂せずに生存できる可能性が急速に低下する。だが、破裂の危険性は瘤の位置や状態などによっても異なるため、治療の対象となる瘤の大きさは治療指針でも「5~6センチ以上」と幅がある。

 山本医師はこう話す。

「瘤が破裂して緊急搬送されてくる患者さんの瘤を計測してみると、多くの場合、5センチ台です。加えて5センチ台の瘤の手術の成功率は高く、治療法が確立しているといえることから、当院は5センチ以上の瘤を治療の対象としています」

 志水医師は瘤の大きさだけでなく、形状や経過なども考慮するという。

「急速に大きくなっている、一部だけが盛り上がって、いびつに膨らんでいる瘤も破裂しやすいといえます。一般的に、全体が膨らむ紡錘状瘤なら大きさでおおよその判断ができます。しかし、一部が飛び出た嚢状瘤の場合は、それほどの大きさがなくても破裂しやすいため、通常よりも早めに治療の対象となります」

 ただ、大動脈瘤の治療には合併症や、さらには死亡のリスクも伴う。このため、破裂しない程度の瘤を闇雲に早めに治療してしまうと、瘤の影響をなくすメリットより、治療に伴うリスクのほうが大きくなりかねない。

 では治療の対象とはならないものの、通常の大動脈より膨れている3~4センチ台の瘤が見つかった患者に対する、経過観察はどのように進めるのか。

次のページ