(イラスト/渡辺裕子)
(イラスト/渡辺裕子)

 失った歯を補う治療としてインプラント治療があります。人工物を埋め込むので、まさか歯周病になるなんてことはない、と思っている人がいるかもしれません。しかし、それは大間違い。むしろ、人工物だからこそ、歯周病になりやすいといえるのです。日本歯周病学会・日本臨床歯周病学会は、国民に歯周病について正しい情報を伝える公式本『続・日本人はこうして歯を失っていく』を発刊しました。本書から、インプラント周囲炎について抜粋して届けします。

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 インプラント治療後に注意しなければならないトラブルの代表がインプラント周囲炎です。インプラント周囲炎は、天然歯で起こる歯周病と同じように、歯周病菌によってインプラントの周囲の歯肉に炎症が起きたり、インプラントが埋入されている歯槽骨が破壊されるものをいいます。

「インプラントは人工物だから、歯周病にならないのでは?」

 と思っている人がいますが、それは違います。インプラント体は歯槽骨と結合し、インプラント上部の周りには歯肉があります。インプラントは人工物ですが、支えている周りの環境は天然歯とよく似ているからです。

 また、歯周病の原因となるプラークは、人工の歯やそれを支えるアバットメント(支台部)、インプラント体のいずれにも付着します。このため、清掃ができていないと歯周病菌が繁殖し、歯肉や歯肉の奥に入り込み、歯周病と同じようにインプラント周囲の組織を破壊していくのです。

 インプラントが天然の歯に比べ、歯周病に感染しやすい理由として歯肉の防御機構が弱いことが挙げられます。天然歯の場合、歯肉の結合組織は歯根に対して垂直に走っており、強く結合しています。ところがインプラントでは、ほとんどのインプラントが金属のため、インプラントに対して歯肉が密着しているだけなのです。このため、インプラントを入れた部分は歯肉が剥がれやすく、歯周病で炎症を起こすと歯肉の奥に広がりやすいのです。

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インプラント周囲の歯肉は血流が不足しやすい