■患者の状態に合わせ 手術をおこなう

 手術のアプローチは“低侵襲”ということが盛んに言われているが、心臓手術の分野でも低侵襲心臓手術(MICS)が症例を選んでおこなわれるようになった。通常の手術は、胸の真ん中の胸骨を縦に20~25センチ切り開いておこなうが、MICSは、肋骨の間を6~8センチ程度に小さく切り開き、そこから患部にアプローチする手術だ。僧帽弁形成術にも適応されることがある。東京女子医科大学病院心臓血管外科教授の新浪博士医師はこう話す。

「MICSは術後の回復、社会復帰は早いです。ただし、大切なことはアプローチではなく、正確な手術をすることです。無理にMICSでおこなうよりも、胸を開いておこなったほうがいい場合もあります。患者さんの病状や希望に応じて適切な方法を選ぶことが重要です」

 社会復帰が早いMICSは通常、70歳以下の患者に適応することが多い。

■使用する弁ごとに 長所と短所がある

 左心室の出口になる大動脈弁が狭くなる大動脈弁狭窄症に対しては、大動脈弁置換術という、傷んだ弁を人工弁に取り換える手術が主流だ。人工弁は牛の心膜や豚の大動脈弁による生体弁を使う場合と、金属の弁である機械弁に置き換える場合がある。

 生体弁は術後3カ月程度、抗血栓薬を飲めばいいが、弁の耐用年数が10~20年程度のため、若い人に使うと高齢になってから再手術が必要となる可能性が高い。

 機械弁は、半永久的な耐用年数があるものの、構造的に血栓ができやすく、抗血栓薬であるワルファリンという薬を生涯飲み続けなくてはならない。服薬に際して、定期的に薬の調整をする必要があり、食べ物の制限や出血しやすくなるなど、さまざまな制約もある。

 生体弁と機械弁の特徴から一般的に若い人には機械弁が使用され、生体弁は概ね60歳代以上の人に推奨される。近年は生体弁を希望する患者が多く、選択される場合が多くなっている。

「生体弁は進化を続けています。弁が壊れる原因となる石灰化を抑制する処理方法が改善されて、耐久性が向上しています。また、通常20針ぐらいの縫合が必要なところを、3針のみで装着できる弁も登場しています。医師にとって使い勝手が良く、手術時間が短くなり、人工心肺を動かす時間も短時間になるため、患者さんにも大きなメリットです」(荒井医師)

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