(イラスト/今崎和広)
(イラスト/今崎和広)
『新「名医」の最新治療2020』より
『新「名医」の最新治療2020』より

 75歳を過ぎると10人に1人が発症するという心臓弁膜症。心臓の弁に障害が起きて、血液の流れが悪くなる病気だ。動悸や息切れといった予兆はあるが、加齢による衰えだと思って放置しているうちに進行し、重症化すると心不全を引き起こすこともある。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』では、治療の第一選択となる手術について専門医に取材した。

【データ】心臓弁膜症かかりやすい性別や年代は?

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 心臓弁膜症のなかでも僧帽弁と大動脈弁に起こる不具合は、放置し続けると心不全の原因になり、生命に関わる。病状の進行に応じて早急な治療が必要となる。

 心臓弁膜症の根治を目指すためには手術が第一選択となる。弁膜症でも患者数の多い、僧帽弁閉鎖不全症と大動脈弁狭窄症に対する手術を中心に紹介する。

 僧帽弁閉鎖不全症は、左心房と左心室の間にある僧帽弁がきちんと閉じず、血液が本来の流れとは逆に流れてしまう病気だ。僧帽弁は2枚の弁尖という膜からできており、一方向だけに開閉するようになっている。僧帽弁が閉じなくなる原因は、弁の開閉をコントロールしている腱索という組織が伸びたり切れたりして2枚の弁尖がずれてしまう場合と、弁尖がゆるんでしまう場合がある。

 この場合には、腱索を修復したり、人工物に取り換えたり、伸びきった弁尖を小さく切って縫い合わせる弁形成術がおこなわれる。弁を形成した後には、弁を固定する外枠である弁輪も装着する。東京医科歯科大学病院心臓血管外科教授の荒井裕国医師はこう話す。

「弁形成術は難度の高い手術ですが、手技が確立された確実な方法です。僧帽弁閉鎖不全症には弁形成術が主流の治療となっています」

 心臓弁膜症の手術は、心臓を止めて人工心肺を操作しておこなうため、確実におこなうと同時に、短時間で手際よくおこなうことが求められる。患者の弁がかなり傷んでいて再建術による修復が不可能な場合は、弁を取り換える弁置換術をおこなうこともある。

 僧帽弁閉鎖不全症には、器質性(変性)と機能性があり、器質性は、先述した腱索や弁尖の不具合によって起こる。一方の機能性は、ポンプのように伸び縮みする心臓の筋肉である心筋が、機能低下して肥大することにより、心筋に弁が引っ張られて起こる。機能性は根本原因が狭心症や心筋症など他の病気にあるため、弁を治すだけではうまくいかない場合もある。病状によっては冠動脈バイパス術や心臓ペースメーカーなど、他の心臓手術が同時に必要になることもある。

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