小林照子さん(撮影/写真部・片山菜緒子)
小林照子さん(撮影/写真部・片山菜緒子)

※写真はイメージです(Gettyimages)
※写真はイメージです(Gettyimages)

 人生はみずからの手で切りひらける。そして、つらいことは手放せる。美容部員からコーセー初の女性取締役に抜擢され、85歳の現在も現役経営者として活躍し続ける伝説のヘア&メイクアップアーティスト・小林照子さんの著書『人生は、「手」で変わる』からの本連載。今回は、孤立してしまったひとに率先して声をかけることの大切さについてお伝えします。

*  *  *

 人生の中で一番大切なことは、自分が本当に困っているときに助けてくれたひとを忘れないことです。上り調子のときは、ひとが自分に寄ってくるのは当たり前。困っているときに「大丈夫?」と世話を焼いてくれたひとにこそ、感謝をするべきです。

 私は30歳のときに大きな事故にあいました。夫、妹が大けがをして入院しているとき、義父も病気で入院していたので、3つの病院と会社を毎日行き来していました。そんな私の仕事のサポートをしてくれたひとたちには、いまでも感謝しています。

 ひとによくしてもらったら、やはり自分も、ひとによくすることです。

 かつて、会社で私のことをとても嫌っているひとがいました。管理部門の方だったのですが、私に対して好意的ではないということは私の耳にも入っていました。まあ、40代の頃の私はいまの私からは想像もつかないようなルックスだったので、見た目からして受け付けないという方も多かったのでしょう。自分が提案するメイクや化粧品の宣伝のためとはいえ、アフロヘアに真っ赤な口紅でしたから。

 その方が急に円形脱毛症になったことがありました。上司との相性が悪く、激しいストレスを抱えていらしたのです。でもまわりの人間は誰も声をかけません。彼を見ようともしないのです。頭に視線がいってもいけませんし、何を話したらいいのかもわからないと、皆が言っていました。

 でもこのままでは彼が完全に孤立してしまう。そう思って私はある日、声をかけてみました。

「私も、やったことあるんだ。あんまりストレスをためこまないことよね」

著者プロフィールを見る
小林照子

小林照子

小林照子(こばやし・てるこ)/美容研究家。ヘア&メイクアップアーティスト。1935年、東京都生まれ。東京高等美容学院を卒業後、小林コーセー(現・コーセー)に美容部員として入社。数々の大ヒット商品を手掛け、85年、同社初の女性取締役に就任。その後独立・起業し、美容ビジネスの企業経営や後進を育てる学校運営をおこなっている。『人生は、「手」で変わる。』(朝日新聞出版)、『これはしない、あれはする』(サンマーク出版)、『小林照子流 ハッピーシニアメイク』(河出書房新社)ほか著書多数

小林照子の記事一覧はこちら
次のページ