大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
※写真はイメージです(写真/Getty Images)
※写真はイメージです(写真/Getty Images)

 かゆみで悩む人が多いアトピー性皮膚炎に今年、新しい薬が承認されたといいます。京都大学医学部特定准教授で皮膚科医の大塚篤司医師が、アトピー性皮膚炎の新薬について解説します。

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 コレクチム軟膏というアトピー性皮膚炎の新薬をご存じでしょうか? 2020年1月、世界に先駆けて日本で承認された塗り薬です。今年の6月末、多くの病院で処方可能となりました。実はこの薬剤、私が所属する研究室が開発に大きく関与しています。今回はコレクチム軟膏の使い方とそのメカニズムについて解説したいと思います。

 まず、コレクチム軟膏はアトピー性皮膚炎患者さんが対象となる塗り薬です。

 臨床試験では16歳以上の成人で効果と安全性を確認されていますが、16歳未満の小児や妊婦・授乳婦への使用に関しては主治医との相談が必要になります。

 アトピー性皮膚炎の第一選択薬としても使用可能ですが、4週間使っても効果が見られなかった場合は中止しなければなりません。

 使用量に関しては「1日2回、1回の塗布量は5グラムまで」という決まりがあります。値段は1グラムあたり139.7円。5グラムのチューブで1本約700円。3割負担の患者さんでは約210円という計算になります。

 コレクチム軟膏を安全に使用するために、日本皮膚科学会ではガイドラインを公開しています。

《日本皮膚科学会ガイドラインURL》

 ポイントとしては

1. 1日2回の外用の間隔は12時間あけること。
2. 傷のある部分や粘膜には使わないこと。コレクチム軟膏を塗った上からラップで覆うなどの密閉療法をしないこと。
3. ニキビやヘルペスなどの感染症の部位には使用しないこと。

 などがあげられます。なお、ガイドラインは全文公開されていますので、興味のある人は上記リンク先を確認してみてください。

 コレクチム軟膏のアトピー性皮膚炎に対する治療効果は、第3相臨床試験で有効性が報告されています(文献1)。16歳以上の中等度または重度のアトピー性皮膚炎が優位に改善されました。興味深いのは、かゆみに対する効果です。コレクチム軟膏を外用して1週間でかゆみが改善し、その効果が持続したとのこと。とても期待のもてる明るいデータです。

 コレクチム軟膏は日本たばこ産業と鳥居薬品が日本で開発し、その成分であるJAK阻害剤を私たちの研究室で分析しました。このJAKという分子がアトピー性皮膚炎の悪化に関与しているため、JAKを阻害することで効果を発揮します。

 かゆみに効果があるのもこのJAKが影響していると考えられています。

 すこし難しい話になりますが、アトピー性皮膚炎にはIL-4やIL-13といったTh2サイトカインが病態にかかわっています。IL-4やIL-13といったTh2サイトカインがアトピー患者さんの湿疹部位で悪さをしているのです。さらに、アトピー性皮膚炎の病気のもととなるIL-4とIL-13は、かゆみにも関係すると言われています(文献2)。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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