■やみくもに時間を費やしても上達はしない

 日本人メジャーリーガーのメンタルコーチをしていた、佐久間馨さんという方とお会いしたことがあります。佐久間さんはゴルフのスイング解析の第一人者でもあり、そんな彼が出版した本のタイトルは、なんとも衝撃的なものでした。『練習ぎらいはゴルフがうまい!』、というのです 。これでは、前述した『Outliers』に書かれている、「何事も練習すればするほどうまくなる」という説とまるで異なってしまいます。

 佐久間さんいわく、間違ったフォームで何度も何度も練習をくり返してしまうと、その癖がついてしまい、なかなか取れないのだそうです。逆に、 練習が嫌いな人は変な癖がついていないので、正しいフォーム教えるとすぐに身につき、ぐんぐん上達するとのこと。考えてみれば確かにそのとおりで、まさに目からうろこでした。

 実はメジャーリーグで活躍しているダルビッシュ選手も、過去に Twitterで「練習は嘘をつかないって言葉があるけど、頭を使って練習しないと普通に嘘つくよ」という言葉を残しています。やみくもに時間を費やしたからといって、上達するわけではないということです。

 その点に関しては、私も受験時に痛いほど実感しました。試験までに時間がないと死ぬほど勉強をしていたのですが、いまいち点数が伸びなかった時期があったのです。このままでは落ちると確信した私は、大学合格者たちがそれぞれの勉強法を語っている本を買いました。

 それを参考にしつつ、徹底的に効率を追求して勉強法を変えてみたところ、なんと、どんどん偏差値が上がったのです。佐久間さんの理論で考えると、私の音痴もしかり。音痴なままいくら歌をたくさん歌ったところで、いつまでたっても音痴は直らず……それどころか、音痴になる喉の使い方をより強化するという悲劇がおきてしまうのです。

■質を重視すれば、少ない時間でプロフェッショナルになれる

「1万時間の法則」という言葉を世の中に浸透させた『Outliers』は、心理学者であるアンダース・エリクソン氏の研究をもとにして書かれたものですが、実はそのエリクソン氏までも、1万時間という数字を「安直な考え方だ」と否定しているのです。

 彼は、大切なのは練習の質と量であり、「質を重視することにより1万時間よりずっと少ない時間でプロフェッショナルになれる」と言っています。そう考えると、何かを上達させたいなら、自己流の練習法ではなく、効率的な練習法を身につけることが最も重要だといえます。

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