(イラスト/タナカ基地)
(イラスト/タナカ基地)

 2006年に京都大学の山中伸弥医師らが世界で初めて作製に成功したiPS細胞。現在、実際の治療に向けてさまざまな分野で研究が進められている。なかでも、損傷したひざ軟骨への移植は2020年中に実施予定で計画が進められている。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』では、研究の最前線に立つ京都大学iPS細胞研究所の妻木範行医師に話を聞いた。

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 外傷やスポーツの衝撃などによって関節軟骨が欠ける「軟骨損傷」。関節軟骨とは、各関節の骨の表面にある厚さ2~4ミリの組織で、軟骨細胞とその周りにある細胞外マトリックスで構成されている。細胞外マトリックスの主要成分はコラーゲンで、衝撃を吸収するクッションのような役割をもつ。

 関節軟骨の損傷が拡大すると、下にある骨が露出し、痛みなどの症状があらわれる。とくに多いのはひざの軟骨損傷で、発生頻度は約3万件/年といわれている。

 現在一般的な治療では、関節内注射や装具などの保存療法のほか、軟骨の下骨に孔を開けて組織の形成を促す骨穿孔術、ひざの傷んでいない部分から骨と軟骨をくりぬいて移植する自家骨軟骨柱移植術などの手術療法がおこなわれている。しかし、これらの手術は大きな損傷には対応できないことに加え、骨穿孔術でみられる線維軟骨は痛みが再発する場合もある。

 また、軟骨細胞を体外で培養して移植する自家培養軟骨移植術もおこなわれている。2013年から保険適用となった手術だ。比較的大きな欠損に対応できることが大きなメリットだが、限られた患者が対象であるうえに、軟骨細胞を体外で培養するため線維軟骨になることと、移植物を作製するのに約1カ月かかり2回の手術を要するというデメリットがある。

■粒状の軟骨組織を最多で150個移植

 そんななか、関節軟骨を“再生”する治療の研究が進められている。全国の病院で受けられるひざの各疾患を対象にした治療は、組織の修復力を高める血小板を患者から採取・抽出して注射するPRP(多血小板血漿)療法、患者の血液から自己タンパク質溶液を抽出して注射するAPS療法だ。症状を抑制する効果が期待できるが、痛みを抑制できる期間は限られ、根治を目指す再生医療とは異なる。

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注目されているのはiPS細胞による軟骨移植