これがきっかけになって麒麟は一気に若手の注目株となった。その後、『M-1』の決勝にたびたび進む常連になり、漫才の腕も年々上がっていった。川島が低音ボイスで繰り出す切れ味鋭いボケに対して、田村裕の高音でとぼけた雰囲気のツッコミが重なる絶妙なコンビネーションが魅力的だった。

 本物の筋肉に瞬発力系の「速筋」と持久力系の「遅筋」があるように、大喜利力にも速いものと遅いものがある。遅い方が「ネタを考える力」である。事前に準備してじっくりネタを練って、最高の答えを探し当てる能力のことだ。

 一方、バラエティ番組やライブの現場では、与えられた状況で当意即妙の答えを返す瞬発力が求められる。ハガキ職人あがりの川島はもともと遅筋を鍛えていたのだが、芸人としてのステージが上がるうちに、いつのまにか速筋の方もついていた。そして、今ではお笑い界有数のマッチョになった。

 私が個人的にそれを実感した出来事がある。数年前、川島を含む複数の芸人が出演するトークライブを見に行ったときのことだ。そこでは川島が発する一言一言でドカンと大きな笑いが起きていた。もちろん、芸人が舞台の上で面白いことを言うのは当たり前なのだが、フリートークの流れの中で何をしゃべっても爆笑をさらうというのは尋常ではない。笑いの爆発の大きさと精度が桁外れだった。

 そんな川島は近年、テレビでもますます重宝されるようになっている。役者やナレーターとしても活躍する一方、バラエティではひな壇、裏回し、サブMC、メインMCと、どのポジションに置かれても完璧に結果を出す。恐るべきユーティリティプレーヤーである。

 もちろん今でも十分に売れっ子なのだが、現在の彼のポジションはその才能の大きさにまだ見合っているとは言えない。数年後には間違いなくMCとして番組を多数持つスターの1人となっているだろう。不世出の大喜利マッチョ芸人の今後が楽しみだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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