麒麟の川島明(C)朝日新聞社
麒麟の川島明(C)朝日新聞社

 芸人がアスリートだとしたら、筋肉にあたるのが「大喜利力(大喜利の能力)」ではないかと思う。大喜利でお題に合わせて面白い答えを考えるのは、笑いの基礎体力をつけるための訓練になる。それはまさに筋トレのようなもので、やればやるほど筋肉は肥大していく。

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 お笑い界でも有数の大喜利マッチョ芸人として知られているのが麒麟の川島明である。川島は芸人になる前の中学時代にハガキ職人として『ファミ通』の読者投稿コーナーなどにネタを投稿していた。そのときから鍛え抜かれた大喜利力の高さには定評があり、大喜利番組『IPPONグランプリ』では優勝経験もある。

 今そんな川島の新刊『#麒麟川島のタグ大喜利』(宝島社)が話題を呼んでいる。彼がインスタグラムで始めた大喜利企画を書籍化したものだ。芸人仲間の顔写真をアップして、その見た目に合ったフレーズを「#(ハッシュタグ)」付きで列挙していく。顔面をお題にした写真型大喜利である。本書にはインスタグラムで公開された作品だけでなく、男性誌『smart』での連載も含まれている。

 例えば、アンガールズの田中卓志の写真には「#図書館でちょっと物音しただけで睨んでくる人」「#竜宮城にて乙姫の前でめちゃくちゃカッコつけてる亀」「#ポップコーンになれなかったトウモロコシの不発弾」といったタグが付けられている。珠玉の大喜利回答が並んだ最後には「#全てが基準値を超えている死角のない芸人」とフォローをするような人物紹介も付けられていて、これならネタにされた本人も悪い気はしないだろう。大喜利マスターである川島の英知が凝縮された一冊だ。

 川島の芸人としての伝説が始まったのは2001年である。鳴り物入りで始まった第1回の『M-1グランプリ』。その審査員席には覇王・松本人志がいた。今よりもずっと若く、ギラギラした雰囲気がにじみ出ていた。

 決勝の舞台で、そんな松本に無名の新人だった麒麟は激賞された。「僕は今までで一番良かったですね」と言われた。全体順位では10組中5位に終わったが、松本に絶賛されたことで彼らの評価は激変した。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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