また「エール」には歌手でミュージカル俳優の山崎育三郎も出演中。音楽学校のプリンスとして歌曲を披露したりしているが、本人も東京音大声楽演奏家コース中退とあって、そつなくこなしている。その点、野田は得意なものとは毛色の違う音楽に取り組むことになり、損をしたともいえる。

 そういう意味で、主人公の音楽的才能を最初に見いだす小学校教師役の森山直太朗なら、もっとしっくりいっていたかもしれない。「影を慕いて」の音楽構造はロックよりフォークに近いからだ。

 とはいえ、古山裕一が古関裕而ではないように、木枯正人も古賀政男ではない。役とモデル、そして演者を結びつけすぎるのは安直だ。ただ、国民栄誉賞を受賞したほどの大作曲家を現役の人気ミュージシャンが演じるというのは、それだけで話題性があり、こうした賛否両論も制作側としてはしてやったりだろう。

 もともと、朝ドラはこの手のキャスティングを好み、ちょくちょく繰り出してきた。その究極は「ひよっこ 紅白特別編」だ。主題歌を担当していた桑田佳祐が作曲家・浜口庫之助役で登場して「涙くんさよなら」を歌った。

 また、演技もできるミュージシャンを脇役で使って、ドラマのアクセントにするのもけっこううまい。「ひよっこ」では峯田和伸(銀杏BOYZ)「まれ」では渡辺大知(黒チェルシー)「とと姉ちゃん」では浜野謙太(在日ファンク)という具合だ。

「スカーレット」でも、岡本太郎を連想させるカリスマ芸術家を西川貴教にやらせて、独特のリアリティーをかもしだしていた。

 かと思えば、音楽もやっていた無名役者が朝ドラでのブレークにより、CDリリースやライブをやりやすくなるケースもある。「あさが来た」のディーン・フジオカや「スカーレット」の松下洸平がそうだ。

 NHKにとっても、役者にとっても、幸せな構図である。

 では、野田の場合はどうか。こちらも以前から役者はやっていて、15年には映画『トイレのピエタ』に主演。デビュー作にして、日本アカデミー賞新人賞を受賞した。ただ、星野源ほど二刀流としての実績はないから、世間やメディアのイメージは「朝ドラに挑戦」みたいになってしまうわけだ。

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野田には「お調子者」の一面も