もちろん、音楽界でのポジションを考えれば、わざわざ挑戦する必要もない。それでもオファーを受けたのは、ちょっとお調子者だからだろう。これは悪いことではなく、芸能人なら好奇心や刺激を求める気持ちは大事だ。よほど演技が下手でない限り、調子に乗ってドラマなどに出てみることは音楽にもプラスになったりする。

 実際、役者もやったおかげで大物感を増した人は多い。長渕剛は共演者と不倫もしたが、それが歌の色気にもつながった。武田鉄矢が一発屋で終わらなかったのも演技ができたからだし、矢沢永吉ですら主演の連ドラを1本やっているほどだ。

 最近では、川谷絵音(ゲスの極み乙女。)も俳優業をかじった。昨年12月には「ドクターX~外科医・大門未知子」にゲスト出演。米津玄師と川谷自身をモデルにしたような人気ミュージシャンで、痔の患者でもあるマヌケな役だ。「週刊誌とかに入院してるとこ撮られたら、すっげえ嫌なんですけど」などと自虐的なせりふを言っているのを見て、みそぎ的な意味もあるのではとしみじみさせられた。

 話を野田に戻すと、今回の仕事、朝ドラとやらに一度出てみるか、という軽いノリだったのではないか。そういえば、2年前には愛国ソング騒動というのもあった。RADWIMPSのシングルカップリング曲「HINOMARU」が一部の人たちから「軍歌のようだ」と非難され、ライブを妨害されたりしたのだ。

 が、野田はSNSでこの曲を書いた動機をこう説明していた。

「純粋に何の思想的な意味も、右も左もなく、この国のことを歌いたいと思いました。自分が生まれた国をちゃんと好きでいたいと思っています。好きと言える自分でいたいし、言える国であってほしい」

 実際、彼は翌年にも、学校の漢文教育に疑問を呈したり、最近では、コロナ禍への政府の対応をめぐってこんな発言をした。

「僕自身は国というものを信用しなくなりました。(略)まるで自分たちの財布の中身のように扱っていますが、税金はそもそも僕たちが支払ったお金です。それを国民が困窮している時に、国民が安心できるレベルまで補償として使わない道理がわかりません」(Rolling Stone Japan)

次のページ
思想よりも感情を大事にするタイプ