医療保険がないと、病院にかかるのはとても高額になる。そのような人々はどうしようもなくなるまで医者にはかかろうとしない。そこでコロナ感染者の早期治療の機会は失われ、重症化してしまう道を辿りやすい。しかも、彼らは倒れる寸前まで働き、ウイルスを拡散してしまう。

 第二に、アメリカでは体調不良を理由に仕事を休む行為は、生活を危険にさらすことになりかねない。

労働者は仕事を休むと解雇されるのではないか、という恐れを常に抱えている。10人の労働力を必要とする雇用主が「休んだ1人を違う誰か1人に“永遠に”入れ替えてしまう」ことは、日本よりずっと簡単に起きるのだ。だから労働者は、咳があっても、熱があっても、吐き気がしても仕事を休みたがらない。

 また、日雇いや、期間払いの労働者も多い。これは都市部に限ったことではなく、今ならトマト、豆、ジャガイモといった夏野菜の収穫に募集される労働者もそうだ。彼らは、その日その日の稼ぎを糧として、生きている。そのような仕事では、密集して働くことも多く、提供される食事も簡素なことが多い。労働環境は良いとは言えない。しかし、それ以外に仕事がない彼らは、体調不良でも働くことを選ぶ。

 第三に、忘れてはならないのが、アメリカは移民大国であるということだ。

 移民労働者の中には、違法状態で働いている者も少なくない。彼らの後ろには、祖国で彼らからの支援を待っている家族がいる。だから彼らは、警察、役所はもちろん、病院にも行きたがらない。公的な場所に行くと捕まってしまう恐れがあるからだ。

 そして、第四に、人種差別、あるいは人種格差という大きな問題がある。

 コロナウイルスでは、黒人とヒスパニック系アメリカ人が、より苦しめられているという報告がある。実際、アメリカの人口の13パーセントである黒人が、コロナ感染者の30パーセントを占めるという報告があった。

 ピュー研究センターによると、コロナウイルスへの感染を恐れている人の割合は、白人で18パーセント、黒人で31パーセントということである。その理由は、黒人の27パーセントが、コロナで入院したり、亡くなったりしている身近な人がいるためだという。

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なぜ黒人やヒスパニックに感染者が多いのか?