そもそも、なぜ白人よりも黒人やヒスパニックに感染者が多いのか?

 彼らが、サービス産業、物流、配送、ホテルのメイド、清掃員、スーパーのレジ打ちなど、常に接触にさらされている職業に多く就いているからだ。たとえばニューヨーク公共交通の労働者(バスの運転手、地下鉄職員など)の60パーセントは、黒人とヒスパニックである。それらの仕事は、“リモートワーク”できない最前線の仕事である。

 そして、黒人社会に連綿と続く“負の継承”があることも否定できない。貧困、不衛生な住環境、ジャンクフード中心の食生活などである。通勤にも長い時間がかかり、パートワークの掛け持ちをする人も多い。疲れ果てて家に帰り、1日の終わりに健康的な食事を作る時間も余裕もない。感染症が流行しているからといって、狭い住居スペースでは個人が家族と距離を保てるスペースなどないのだ。

 アメリカ疾病予防管理センターによると、ウイルス問題がない平時においてさえ、黒人は白人よりも50パーセント以上心臓病になりやすく、40パーセント以上若くして亡くなりやすいという。

 ネイティブアメリカン保留地に暮らすナバホ族は、慢性的に水不足の問題を抱えている。水道も電気も通っていない手洗いさえできない世帯もある。近くに病院もなく、緊急時には救急車で保留地の外の病院に搬送される。仕事も保留地の外に行き、そこでコロナに感染すると家に持ち帰って感染が蔓延することになる。このような状況は、程度の違いはあれ、黒人やヒスパニックも同じである。

 アメリカに根強く残っている差別意識からのストレスや、上に示したようなさまざまな要因が複合的に重なり、白人よりも黒人やヒスパニックの人たちがコロナに感染し、重篤化しているのである。

 アメリカ社会において、コロナウイルスは、誰にでも等しく降りかかるイコライザーではない。残念ながら、コロナウイルスは社会の弱い部分から広がり、人種や階層の格差を拡大させている。

 もちろん日本社会にも格差は存在する。だが、アメリカのそれとは程度が違う。

 今から、そしてこれからも、日本における“格差”が増幅しないことを、心から願っている。

 私はこれからも日本で暮らしたいと、心から願っている。(早稲田大学名誉教授・ジェームス・M・バーダマン)