アメリカ社会は10の地域に分けられる。それぞれの地域の特徴を見れば、アメリカ社会が見えてくる(『地図で読むアメリカ』より)
アメリカ社会は10の地域に分けられる。それぞれの地域の特徴を見れば、アメリカ社会が見えてくる(『地図で読むアメリカ』より)

アメリカ地形図(『地図で読むアメリカ』より)
アメリカ地形図(『地図で読むアメリカ』より)

ジェームス・M・バーダマン(早稲田大学名誉教授)
ジェームス・M・バーダマン(早稲田大学名誉教授)

 現在、アメリカは世界一の“コロナ感染大国”となっている。日本から見ると、都市部は完全にロックダウンしているように見えるアメリカで、どうして日本より急速で大規模な感染爆発が起きているのか不思議に思う人が多いだろう。

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 その理由について、『地図で読むアメリカ』の著者で、アメリカ社会の歴史と文化に詳しい早稲田大学名誉教授のジェームス・M・バーダマン氏が語ってくれた。日本社会の常識に照らしてアメリカを見ると、事実を見誤ってしまう可能性がある。アメリカ社会は、そもそもの前提が日本とはまったく違うからである。

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「ロックダウンなんてやめてくれよ。俺は散髪がしたいんだよ」とニューヨークの白人男性が不満を言う。「私たちには、公共のビーチで日光浴をし、子どもたちやペットに砂遊びをさせる“権利”がある」とカリフォルニアやフロリダの住民は訴える。彼らは3つの密(アメリカではClose Contact, Close Space, Close Conversation)の危険性を理解していないのだろうか?

 一方、ミシガン州では、経済活動再開を求めて地元住民が州政府にデモを行った(早期の経済活動再開をしたいトランプ陣営が仕掛けたという報道もあるが)。彼らはやはりコロナウイルスを軽んじすぎていると考える事もできるが、一方で働かないと家族を養えないという事実もある。

 こういったアメリカの報道をみて、日本と重ねて見てしまう人もいるだろう。巣鴨の地蔵通りで「年寄りだから体を動かさない事にはねえ」と言っている老人や、自粛要請が出た都内から、まだ自粛要請が出ていない近郊県のパチンコ店に遠征に行く人々のコメント、少しでも生活の足しになればと居酒屋を開いている店主の話などである。

 アメリカの状況を伝える報道を、日本社会に育ち、日本社会で暮らしている感覚で理解しようとすると、画面に映っていないその奥に広がる現実を見過ごしてしまうだろう。

 日本とアメリカでは、前提となる社会事情がまったく異なる。

 まず第一に、アメリカには日本のような国民健康保険がない。

 もちろん、アメリカでも健康保険に加入できている会社員は多い。しかし、パートワーカーや非正規雇用労働者、フリーランサーの少なくない人数が健康保険に未加入だ(アメリカ先住民、ヒスパニック系は30パーセント以上、アフリカ系[以後、黒人と表記する]は18パーセントが未加入である。白人でも13パーセントの未加入者がいる)。

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国民健康保険がないとどんな問題が?