■厚生年金+慎ましい生活、生きていくのは十分可能

 また、このデータは平均値に基づいていますが、それにより誤解を生んでいる側面もあります。平均値は必ずしも、多くの人の実感を代表するものではありません。高額の蓄えがある人が平均値を引き上げているだけで、大多数の貯蓄額はもっと少ないのが実情です(図表参照)。

 これを念頭に置いて支出の内訳を細かくチェックしてみると、いくつもの疑問が生じます。

「たとえば食費が月間6万4444円で、これは消費支出全体の27.4%を占めています。しかし、高齢夫婦無職世帯における適切な食費の割合は消費支出の15%前後で、月間約3万5000円にすぎませんし、私と私の妻(共働き)の家計でもその程度の負担で済んでいます」(同)

 さらに驚くのが交通・通信費の月間2万7576円です。

「総務省の別の調査(家計調査)によれば、動画などを頻繁に視聴している若い世代も含めた総世帯の通信費でさえ1万3404円です。通勤もない高齢夫婦でここまで高額の交通・通信費がかかるのは少しかけすぎかもしれません。」(同)

 一方、収入のデータも同様です。厚生年金(旧共済年金も含む)は現役時代の所得に応じて受給額が異なるため、たくさんもらっている人たちが平均値を引き上げている可能性があります。

「収入と蓄えの多いシニアであれば、この平均値データの収支に比較的近いのかもしれません。しかしながら、もっと少ない年金を受け取りつつも、出費は少なくて済み、特に不自由なく暮らしているシニアも多いのが現実でしょう。基本的に厚生年金(旧共済年金も含む)の加入者なら、現役時代に則した慎ましい暮らしを営むかぎり、公的年金だけでも十分にやりくりできると私は思います」(同)(文/大西洋平)

〇大江英樹さん:大手証券会社で定年まで勤務後独立。経済コラムニストとして『資産寿命』(1月発売予定)『定年前』(いずれも朝日新書)等執筆のかたわら、全国で年間130回超の講演をこなす。専門はシニア層のライフプランニング等。

※週刊朝日MOOK『定年後のお金と暮らし2020』から抜粋

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大西洋平

大西洋平

出版社勤務などを経て1995年に独立し、フリーのジャーナリストとして「AERA」「週刊ダイヤモンド」、「プレジデント」、などの一般雑誌で執筆中。識者・著名人や上場企業トップのインタビューも多数手掛け、金融・経済からエレクトロニクス、メカトロニクス、IT、エンタメ、再生可能エネルギー、さらには介護まで、幅広い領域で取材活動を行っている。

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