大学4年時に本人に話を聞いた時には「高校時代の方がフォームは良かったと思います」と話していたように、大学で登板を重ねる度に少しずつテイクバックの動きにスムーズさが失われていたという不安材料はあったものの、ここまで苦しむとは誰もが思っていなかっただろう。度重なる右肩の故障に悩まされたということもあったが、やはり気になるのが入団1年目に先発に挑戦したことである。

 大石は大学時代、リーグ戦通算60試合に登板しているが、先発したのはわずかに3試合。そしてその3試合のうち勝ち星を挙げたのはデビュー戦の対東京大戦だけで(5回1失点)、残りの2試合は5回4失点、4回6失点と試合を作ることができなかった。完全にリリーフとして実績を積み上げて評価されてきた選手だったのである。

 プロ入り1年目に先発として起用する方針となり、そのことでペース配分を意識してかスピードが大きく落ちてしまい、大学時代に見せたストレートは最後まで戻ることはなかった。6球団競合の逸材だから大きく育てたいという首脳陣の気持ちは分からないではないが、大石の場合はそれが完全に裏目に出たケースと言えるだろう。

 実は大石に限らず、プロ入り後の起用法、配置転換などでアマチュア時代の輝きを失ってしまうケースは少なくない。そこには現場を預かる監督、コーチと選手を獲得してくる編成、スカウトの間のコミュニケーション不足が少なからず関わっている。

 ヤクルトで長くコーチ、二軍監督を務め、一時はスカウトも担当していた八重樫幸雄さんの話によると、キャンプの時にスカウトから新人選手についての説明があっても、その情報を生かしきれていないケースも多かったという。そしてピッチャーの場合は、注目される選手であればあるほど、コーチからの指摘が多すぎてフォームを崩してしまうこともあるそうだ。

 今年のドラフトでも佐々木朗希(ロッテ1位)、奥川恭伸(ヤクルト1位)、森下暢仁(広島1位)など注目度の高い投手が1位で指名されている。プロで活躍するためには良い指導者、環境に巡り合うことは重要だが、各球団がまずは彼らの長所を生かすように最大限配慮することが必要ではないだろうか。そういう意味では大石のように、プロ入り1年目のキャンプから躓くようなことがないことを切に願いたい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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