■タランティーノにアポなし訪問し役をゲット

 こうして、徐々に活躍の場が与えられた北村だが、彼を語るうえで外せないのが役作りに対するこだわりだろう。

「一番有名なのは、映画『JOKER 厄病神』(1998年)のチンピラ役ではないでしょうか。チンピラの生い立ちを歯でも表現するために、健康な歯を9本抜いたり、削ったというから驚きです。映画『鬼火』(1997年)では、ゲイバーのママ役を演じた際は研究のため毎日のように多くのゲイバーが軒を連ねる新宿二丁目に通ったといいます。まだ無名でお金がないため、路上に立って声をかけられるのを待っていたとか。貞操の危険を冒してまで臨んだ劇中での立ち居振る舞いは『本当にゲイなのでは?』と思うほど見事でした。他にも北村伝説はまだまだ尽きませんが、来日中の映画監督クエンティン・タランティ―ノの宿泊ホテルにアポなしで突撃し、出演を要請。それが映画『キル・ビル』(2003年)の出演へとつながるのですから、行動力も並外れたものを持った俳優さんだと思いますね」(同)

 そんな数々の逸話を持つ北村。プライベートでは1人息子の父親でもあり、トーク番組に出演した際は、その変わった子育て法を明かしている。

 北村が実践するのは「怒らない育児」だが、ただ怒らないだけではない。たとえば、ファミレスなどで子どもが走りまわる前に、北村本人が走って見せるという。店長に怒られる北村を見ると、息子は2度と走り回らなくなるのだそうだ。怒られた理由を北村が息子に尋ねると『みんなに迷惑だから』と答えたそうで、「これがわかると、子供は2度とやらない」と熱く解説していた。「(北村を)尊敬している」「この父親でよかった」と息子は番組の取材に答えており、この育児法が北村家では成功したといえるだろう。(TBS系「A-studio」2017年12月15日放送)

 次々と新しい舞台、テレビ、映画に挑戦し続ける北村だが、ドラマウォッチャーの中村裕一氏はそんな北村の魅力についてこう分析する。

「毎朝、視聴者が常治を見て『何かやらかすのではないか』とドキドキハラハラするのは、ひとえに彼の表現力のなせる技でしょう。古き良き昭和の父親を違和感なく演じられる、確かな演技力の持ち主であることを証明した形になりました。50歳という節目の年に朝ドラ初出演を果たし、彼の心の中にも感慨深いものがあるのではないでしょうか。若い頃からさまざまな経験を積んできただけあって、迷いのない肝の据わった芝居が持ち味。年齢を重ねるごとにさらに味が出て、魅力が増していくと思います。もっとも、本人的にはそんなことはまったく意識せず、いつまでも貪欲に芝居を追求していくことでしょう。カメレオン俳優の第一人者として、ここからさらに違う顔をたくさん見せてくれることに期待したいですね」

 カリスマホストからローマ人、ゲイや殺人鬼……幅広い役柄を自分のものとし、見るものを魅了するその確かな演技力は、並々ならぬ研究心と努力の賜物だった。(高梨歩)

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高梨歩

高梨歩

女性ファッション誌の編集者など経てフリーライターに。芸能やファッション、海外セレブ、育児関連まで、幅広いジャンルを手掛ける。活動歴は約20年。相撲フリークの一面も。

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