しかし、そんな状況でも力を伸ばし、秋は本来のピッチングを見せて支配下指名を勝ち取った。大学生にしてはまだ少し細身だが、欠点のほとんどないフォームは美しいと形容したくなるほど。145キロを超えるストレートだけでなく、打者の手元で鋭く変化するスライダー、カットボールと変化球のレベルが高いのも大きな武器である。しっかり体を作ることができれば、近い将来のローテーション入りも十分に期待できる素材だ。

 冒頭で触れた甲斐拓也や千賀滉大(ソフトバンク)のように育成選手から大化けするケースもあるが、今年の育成指名からは大関友久(仙台大→ソフトバンク育成2位)と小峯新陸(鹿児島城西→楽天育成2位)の二人を紹介したい。

 大関は土浦湖北時代はまとまりのある好左腕という印象だったが、大学進学後に見違えるように体が大きくなり、それにともなってスピードも大きくアップした。下半身が沈み込まずに倒れ込んで投げる外国人投手のようなフォームに特徴があり、好調時は140キロ台後半のストレートで打者を圧倒するピッチングを見せる。体作りが進んでいるだけに、好不調の波を抑えることができれば比較的早く抜擢される可能性も十分にあるだろう。

 小峯は190cm近い長身の大型右腕。体つきは見るからに細く、腰痛に悩まされていた時期もあって、スピードは140キロ程度と物足りないが、悪いクセのないフォームは大きな魅力だ。スムーズに高く肘が上がり、真上から投げ下ろすボールの角度は一級品。しっかり体を作ることができれば、一気にスピードアップすることも十分に期待できるだろう。

 ここで紹介した選手はごくごく一部で、他にも楽しみな素材は多い。1月の合同自主トレ、2月のキャンプで果たしてどんな選手が飛び出してくるのか。少し気が早いが、今から来シーズンが楽しみでならない。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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