宮村氏はまた、「洪水時のダム湖は大量の流木を貯め込んでいる。その効果は特に鉄道など交通機関の長期不通を招く、橋梁の流出防止に大きく役立っている」という。台風19号での水郡線の橋梁被災現場などの映像を見ると、橋脚はもちろん橋桁の上部にまで多くの流木が引っ掛かっている様子がわかる。大量の出水そのものによって橋脚の基礎がえぐられるケースもあるが、流木が主因となって川の流れが阻害され、橋梁の破壊はもちろん、橋梁の周囲で破堤を引き起こして氾濫を招く場合も多い。

 流木は上流部での山腹の崩壊、河岸や河床浸食などが原因で発生し、急傾斜を流れ下って被害をもたらす。しかし、水面勾配が緩やかなダム湖では流れが大きく減勢されるため、大量の流木を留めることが可能だ。台風19号でも荒川にある二瀬ダムなどで、多くの流木がダム湖に浮かんでいる様子の映像が映し出されていた。

 「それらがすべて下流に流れれば橋梁の破壊はもとより、川に流されている人を直接襲う危険もある。ただし、流木については漂着量予測の算定が難しいこともあり、現状ではダムの防災効果としてなかなか表に現れてこない」と宮村氏は言う。

■八ッ場ダム単体の3.3倍の水を貯め込んだ渡良瀬遊水地

 また、台風19号では平野部に設けられた遊水地も大きな貯水効果を示した。国交省利根川上流河川事務所によると、渡良瀬遊水地と周辺の菅生・稲戸井・田中の各調節池を合わせて、過去最大となる計約2.5億立方メートル(東京ドーム約200杯分)の洪水貯留効果が認められたという。その総量は、たとえば八ッ場ダムが単体で貯めた水の約3.3倍と、けた違いの数値になっている。

 荒川水系でも、さいたま市と戸田市にまたがり、通常は秋ヶ瀬公園、彩湖・道満(さいこ・どうまん)グリーンパークなどとして市民の憩いの場になっている荒川第一調節池も、本来の治水効果を発揮した。国交省荒川上流河川事務所によると、荒川は下流の平野部にも降り注いだ豪雨により、谷(同熊谷市)・川越線荒川橋梁に近い治水橋(じすいばし、同さいたま市)の両水位観測所でも、観測史上最高となる氾濫ぎりぎりの水位に達した。

 10月12日午後11時35分頃、荒川から越流堤を越えて荒川第一調節池への洪水の流入が始まった。河川敷のグラウンドなどは水没したものの、市街地との間を隔てる堤防からの越水はなく、荒川第一調節池は過去最大となる約3500万立方メートルの貯留を行った。

 荒川と新河岸川の合流点近くに設けられた朝霞調節池(同朝霞市)も同日午後4時頃、越流堤からの洪水流入が始まり、やはり過去最大となる約50万立方メートルを貯め込んでいる。同河川事務所では両調節池などの働きにより、東京都内を含む「荒川下流域、新河岸川下流域の洪水被害防止に貢献しました」としている。(文/武田元秀)