ただし、上流に有効な治水ダムのない利根川の支川・巴波(うずま)川のさらに支川にあたる、永野川を渡る両毛線大平下~栃木間の橋梁は土台部分などが崩壊。八高線丹荘~群馬藤岡間の神流川橋梁は橋脚変位の恐れがあるとして、それぞれ不通となっている。また、八ッ場ダム湖西端よりも上流部にあたる吾妻線長野原草津口~大前間は、路盤への土砂流入による不通が続いている。


 
 「利根川と荒川上流部にあるダム群、さらに渡良瀬遊水地と荒川第一調節池が造られていなければ、今回の台風19号で東京都内を含む下流側に大きな被害が出ていた可能性は高い。特に八ッ場ダムが大量の水を貯め込んだ効果は、極めて大きかった」

 『水害 治水と水防の知恵』(中公新書・関東学院大学出版会)などの著書がある関東学院大学名誉教授の宮村忠氏(河川工学)は、そう語る。八ッ場ダムは2019年度内の完成を目前に、10月1日から実際にダム湖に水を貯めて堤体や周辺の安全性を確認するための「試験湛水」を行っていた。当初の予定では試験湛水開始水位の標高481.5メートルから約3カ月かけて、「洪水時最高水位・平常時最高貯水位」にあたる標高583.0メートルまでの貯水を行う予定だった。

 台風19号が接近してきた10月11日午前2時の時点で、ダム湖の水位は標高518.8メートル。ところが13日午前5時までの間の豪雨により、吾妻川には最大で毎秒2500立方メートルに及ぶ流入量があり、水位は一気に573.2メートルまで54.4メートルも上昇した。八ッ場ダム湖の湛水面積は吾妻線岩島~長野原草津口間にかけての11.5キロ、304ヘクタールに及ぶ。この間、ダム湖に貯められた水量は約7500万立方メートル(東京ドーム約60杯分)に達したが、その100%を受け止め、下流に放流されることはなかった。

 これを受けてSNS上では「八ッ場ダムが利根川の氾濫を防いだ」「東京を救った」など、称賛の書き込みが数多くなされた。

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湖底に沈んだ吾妻線旧線